『Past<Future』のヴィジョンを音で体現した多彩な顔ぶれを紹介するよ!!
本文にもあるように、今回の『Past<Future』は最先端のR&B~アーバン志向を漲らせていた過去数作と比べれば、冠ナシに〈ポップス〉と呼びたいカラフルな内容に仕上がっている(ただ、世界的にR&B自体が旧来型の〈ポップス〉を取り込むムードにあるので、そういう意味では今作もメインストリームのR&B志向を前へ進めたものだと言える)。その担い手を順番に探っていこう。
まずは海外勢だ。オープニングの “FAST CAR”を手掛けたノルウェーのDサイン・ミュージックは、ヨーロッパを中心に楽曲を提供するプロデューサー/ライター集団で、クライアントもアロハ・フロム・ヘルから少女時代まで実に幅広い。それはカナダのSAトラックワークスにも言えることで、彼らはラウラ・パウジーニやステイシー・オリコ、タタ・ヤン、そして東方神起らの躍進に貢献してきた息の長いチームだ。“Bad Habit”を手掛けたランダム・ミュージック(スウェーデン)の面々はショーン・デスマンなどのR&B仕事でも記憶されているが、このようにさほど名前の立っていない世界中の職人が並ぶ様子を見れば、逆に楽曲そのものの水準だけが安室のなかで優先されているのもよくわかる。もはや名前でクリエイターを選んだりするような地平に彼女はいないのだ。
そういう意味では日本勢にも注目だろう。“Steal my Night”にはJUJUや西野カナに特大ヒットを授けた売れっ子のJeff Miyaharaが起用されているものの、ここでのマナーは比較的〈PAST〉を意識したものだったりするのかも。一方で、イマっぽさが顕著な“MY LOVE”をプロデュースしたのはまだ20代前半だという新鋭のHIRO。倖田來未の名曲“TABOO”を手掛けて一部で注目されていた彼だが、それ以降はBoAの“Best Friend”や後藤真希のプロジェクトなど関連作品を急増させていて、今後の躍進にもますます期待できそうだ。
さらに、この後の展開という部分で注目すべきなのはU-Key zoneか。これまで山田優や宏実らを手掛けてきた彼もアーバン通過後のポップネス確立を担うひとりで、最近はソングライターの MOMO“mocha”N.と組んで青山テルマや三浦大知の作品に良曲を投下。今回の安室にはオーセンティックなバラードの“The Meaning Of Us”(MOMOの詞が素晴らしい!)を提供する一方、全曲を任された黒木メイサの新作『ATTITUDE』では引き出しの多さも開陳済みである。多種多様なメンツが触発し合うことでポップ・ミュージックのおもしろさが進化/拡張されていくのだとしたら、『Past<Future』こそがまさにその実験場なのだ。
▼関連盤を紹介。
アロハ・フロム・ヘルの2008年作『No More Days To Waste』(Sony Germany)、少女時代の2009年作『Genie』(SM)、ステイシー・オリコの2003年作『Stacie Orrico』(Forefront/Virgin)、タタ・ヤンの2006年作『Temperature Rising』(Sony)、ショーン・デスマンの2004年作『Back For More』(Sony Canada)、西野カナの2009年作『LOVE one.』(ソニー)、倖田來未の2009年作『TRICK』(rhythm zone)、SWEET BLACK feat.MAKI GOTOの2009年作『SWEET BLACK feat.MAKI GOTO』(rhythm zone)、宏実の2009年のシングル“愛されたい”(SUGABEE)、青山テルマの2009年作『Emotions』(ユニバーサル)、三浦大知の2009年作『Who's The Man』(SONIC GROOVE)、黒木メイサのミニ・アルバム『ATTITUDE』(ソニー)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2009年12月16日 18:00
更新: 2010年02月10日 19:04
ソース: bounce 317号 (2009年12月25日発行)
文/出嶌孝次