インタビュー

JOSE JAMES 『Blackmagic』

ジャズ・ヴォーカリストの範疇をナチュラルに拡大してきた男が、さらに美しい進化をここに刻んだ。新しい魔法が新しい年の始まりを官能的に染め上げていく……

 

ホセ・ジェイムズはロマンティストである。例えば「日本の印象は?」などという挨拶代わりのありきたりな筆者の質問に対しても、丁寧にこんな答えを返してくる。

「初めて日本を訪れた時、六本木ヒルズの展望台に行ったんだ。その景色の美しさに吸い込まれそうになったのをよく覚えている。ちょうど桜の季節で、それはもう本当に綺麗だった。そういう普遍的な美を持ちつつ、カッティングエッジでもある東京のコスモポリタンな風景は、なんだか僕の音楽にも通じているんじゃないかと思えたよ。僕も出身はジャズなわけだけど、モダンな手法をミックスさせるのが好きで、それが僕の音楽のコンセプトだからね。あの風景に触れた瞬間、都市のスピリットとポエムを感じたんだ」。

 

これは旅のアルバムだ

 

美に対しての希求が強い。そして、その美とは異種の交配や異なる地の交差のなかから見えてくるものだと考えている向きがある。ゆえに彼は旅を楽しみ、異なる分野のミュージシャンやクリエイターとのコラボレーションを積極的に楽しもうとする。以前からそうだったが、『The Dreamer』というパスポートを手にしてからはより自由にそれをするようになった。旅をしやすいように、NYだけでなくロンドンにも住まいを持った。その2都市を拠点にあちこちの国に行き(とりわけ東京は彼にとってインスピレーションを受けることの多い都市のようだ)、その旅の成果としてセカンド・アルバム『Blackmagic』を完成させた。

「まさしくこれは旅のアルバムであり、同じ国にじっとしていたら作れなかったものだね。何しろこの2年間、ずっと旅していたから。初めて訪れる国は少し緊張するんだけど、そこで自分を曝け出すことによって、その国やそこの人々のエネルギーを受け取ることができる。僕はこの2年で世界のいろんな国の人のエネルギーを感じ、その経験がアルバムに表現されているんだ」。

いろんな場所で曲を書き溜め、ざっと30曲が出来た。そこから20曲ちょっとをレコーディングし、さらに絞って16曲を収録した。初めに完成したのがフライング・ロータスをフィーチャーした表題曲“Blackmagic”。これを含め、フライング・ロータスとのコラボレーション曲は3曲もある。

「“Blackmagic”はLAとNYのふたつの都市がインスピレーションの源になっている。フライング・ロータスがLAでビートを作り、僕がNYでトラックを制作し、データをやりとりしながら作ったってこともあるけど、要するにあれはアメリカの都市というものを表現しているんだ。どっちも強烈で、せわしなくて、でもエネルギーを与えてくれる場所だろ? ちなみに彼と初めて会ったのはロンドンだった。僕は彼のファンだったから、曲をたくさん渡したら気に入ってくれたっていうのが始まりだね。彼とやったなかでも、この表題曲はセカンド・アルバムの突破口になった。エレクトロニック・ミュージックのなかに新たな自分の声の表現方法を見つけることができて、自信がついたんだよ」。

もうひとり、「いっしょにやったことで僕の音楽的視野が広がった」とホセが話すのが、ムーディーマン。マーヴィン・ゲイ『I Want You』のなかに入っていてもおかしくないような、黒く艶めかしい“Detroit Loveletter”という曲で両者はコラボレーションしている。

「前作に入ってた“Desire”をリミックスしたものをムーディーマンが突然送ってきてくれたんだけど、それが圧倒的に美しい仕上がりでね。で、その2か月後に彼のギグがロンドンであって、そこで初めて会ってすぐに打ち解けたんだ。で、今回ソウルフルな曲が欲しいと思った時に、すぐに彼に連絡して曲を送ってもらって。マーヴィン・ゲイというキーワードを口に出したわけでもないのに、お互いの欲しいムードがそこにあって、スピリチュアル・コネクションとでも言うべきものを感じたね」。

 

いろんなカラーを見せることができた

 

また“Promise In Love”というロマンティックな曲は、DJ Mitsu the Beatsのアルバム『A WORD TO THE WISE』に収められて話題を呼んだものだ。

「彼といっしょに曲を作るのがとても楽しかったし、僕のなかでもベストに入る出来映えだったから、自分のアルバムにも入れたいと思ったんだ。いまのクラブ・ミュージックにはロマンスが欠如しているので、ややオールド・スクールでロマンティックなヴァイブスを加えた。Mitsuとのこの曲が入ったことで、アルバムをよりグローバルなものにすることができたね」。

そうした意義あるコラボレーションの成果もあって、全体的に前作よりも温かみと深みの感じられるアルバムになっている。ダブ・ステップやエレクトロ・タッチなど新味もちらほら入ってはいるが、落としどころはソウルであるとも言え、だからこのアルバムはとりわけソウル・ミュージック・ラヴァーズの耳と心を捉えて離さないはず。

「前作はマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビリー・ホリデイら、僕の尊敬する音楽家たちに捧げるジャズ・アルバムにしたいというところで作り始めたものだった。でも今回はもっとコンテンポラリーでソウルフルなレコードにしたかったんだ。ビートはヒップホップのプロダクションのようであっても、マーヴィン・ゲイやアル・グリーンらのレコードにあるようなサウンドの親密さが欲しかった。それから僕のヴォーカルの可能性をもっと知ってほしかったっていうところもあるかな。前作でのヴォーカルはほぼ一色だったけど、今回はいろんなカラーを見せることができたと自負しているんだ」。

いまのホセの考える〈美〉は、もう寒色系の色だけで成り立つものではないのだろう。なので、こんな季節の夜にも……ぜひ。

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掲載: 2010年02月03日 18:32

更新: 2010年02月03日 18:36

ソース: bounce 317号 (2009年12月25日発行)

インタヴュー・文/内本順一