ほたる日和 『elementary』 ロング・レヴュー
〈elementary(元素の/初歩の)〉というタイトルが示唆するとおり、ほたる日和を形作っている色とりどりのエレメントが瑞々しく表現されたファースト・フル・アルバム。
〈ここから、何かが大きく変わる気がする〉という強く、儚い予感を映し出したアップ・チューン“前触れ”、90年代のスウェディッシュ・ポップを想起させる“sarah”、彼らの特徴のひとつである〈郷愁〉を前景化させた“少年時代”、軽やかなシャッフルのリズムに乗って〈ダメな自分だけど、まあ、なんとかなるでしょ〉と歌い上げる“がんばります。”、妄想と現実の間で揺れる怪しくも魅惑的なイメージが印象的な“秘密結社”、美しく、叙情的なメロディーが胸を揺らす“一途に想うということ”――これらの新曲に触れれば、このバンドが持つ多面性、そして、早川厚史(ヴォーカル/ギター)の幅広いソングライティング・センスに気付くはずだ。また、スマッシュ・ヒットを記録した“季節はずっと”をはじめとする既発曲もすべて再レコーディング。〈現在進行形のほたる日和〉を伝える、生々しいサウンド面にもぜひ注目してほしい。
早川が紡ぎ出すカラフルな世界観を感覚的・抽象的に捉えながら、豊かな広がりを持つアンサンブルは、まさにこのバンドの根幹。一瞬で消えてしまう刹那的な感情をしっかりと掬い上げ、揺るぎないバンド・サウンドを通じてタイムレスな魅力を持ったポップ・ミュージックへと結び付けていく。この構造こそがおそらく、ほたる日和の本質なのだと思う。
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