インタビュー

神聖かまってちゃん 『友だちを殺してまで。』

 

神聖かまってちゃん_特集カバー

 

インターネット配信を中心とした奇天烈なパフォーマンスと、聴き手の心をことごとく鷲掴みにする繊細なロック・サウンド。その2つの武器を手に、ヴァーチャル~リアル世界の双方で話題を撒き散らしてきた4人組がファースト・ミニ・アルバム『友だちを殺してまで。』を完成させた。の子(ギター/ヴォーカル)不在のなかで行われた今回の取材だが、その中心人物を間近で、かつ客観的に見る3人の言葉によって、神聖かまってちゃんというバンドの実体に迫る。

 

 

全部、の子のフィーリングです

 

――ちばぎんさん、monoさん、の子さんは幼馴染みなんですよね。3人とも幼稚園から?

ちばぎん(ベース/コーラス)「そうですね。幼稚園の頃は僕との子が同じ組で、結構仲が良くて。でも、の子は小学校に上がる時に転校してしまって、連絡が取れなくなってしまったんですよ」

mono(キーボード)「俺は幼稚園の頃、2人と接点はないんですよ。ちばぎんと家は近かったんですけどね」

ちばぎん「mono君とは小学校3年の時に同じ少年野球のチームに入って、そこで仲良くなったんです。その頃の子は、どこへ行ったのやら……という感じで」

――の子さんと再会したのは、いつですか?

mono「高校に入ってからですね。の子が僕に〈○○幼稚園じゃない?〉って話しかけてきて。そこから仲良くなったんですよ。でも、の子が学校辞めちゃって、またいなくなっちゃったんですよね。その頃、僕とちばぎんは音楽に興味を持ってきていて、2人でバンドを組んでいたんです。それである日、僕がスタジオで1人で個人練習に入ったら、そこでバッタリの子と再会したんですよ。〈何やってんの!? ……まあ、スタジオにいるんだからバンドやってるんだろうけど〉みたいな(笑)」

――そこからいっしょに?

mono「の子が〈ドラム探してるんだよねぇ〉って言ったんですよ。僕はその時ドラムだったんですけど、ちばぎんとバンドやってたから〈へぇ、そうなんだ。がんばってね〉くらいで流して(苦笑)。でも、その後ちばぎんとのバンドが解散しちゃって。行くあてなくなっちゃったから、の子に電話して〈まだドラム探してる?〉って訊いたらまだ探していたので、そのままバンドを組んで。それが神聖かまってちゃんの原型ですね。完全に、遊び感覚ですよ」

――みさこさんはどんな学生生活を?

みさこ(ドラムス)「私は大学時代に軽音楽サークルに入っていて、そこの先輩とバンドを組んでいたんですよ。ネットでそのバンドのメンバー募集をかけていたんですけど、なかなか良い人が集まらなくて、自然消滅しちゃいそうだったんです。そのちょっと前に、の子さんから〈ドラムだけ募集してます〉という話をもらっていたんですね。しばらく放置していたんですけど、一昨年の10月くらいに返事を返したら、すぐ会うことになって。次の日にスタジオに入った時には、もう正規メンバーだと言われてましたね」

ちばぎん「僕はその時、別のバンドを組んでいて、そのバンドで作詞作曲とギター、ヴォーカル担当で、そっちがメインだったんですね。ある日、神聖かまってちゃんのほうでmono君がドラムからキーボードに移るという話になっていて、〈ドラムがいないとライヴができない〉と言われたんですよ。遊び程度ですけど、僕もドラムが叩けたので、ヘルプで入るようになって。みさこさんが加入した頃、僕はまだヘルプだったんですよ。〈ドラムが入ってきたし、もういいかなー〉なんて思っていたら、人間性を買われたのか(笑)、正規メンバーになってくれって言われて。その時はベースもヘルプ・メンバーだったんですけど、その位置に僕が移ったんです。程なくして僕のバンドも解散してしまって、いまの神聖かまってちゃんになったという感じですね」

――神聖かまってちゃんというバンド名はいつから名乗っているのですか?

mono「最初は〈ビバルゲバル物語〉というバンド名だったんですよ。その後、僕がの子に〈すばる書店〉とかあるから、〈書店〉ってどう?って訊いたら、〈いいね!〉って言われて。それで〈ビバルゲバル書店〉になって。超適当だった(笑)」

みさこ「〈物語〉時代も長かったんでしょ?」

mono「いや、確か〈書店〉時代のほうが長かった気がするなぁ……どっちだっけ?」

ちばぎん「どっちでもいいわい(笑)!」

mono「その後〈うっそぴょん〉っていうバンド名になってから、神聖かまってちゃんなんですよ。全部、の子のフィーリングです。突然の子が〈バンド名変えよう〉って言いはじめて、僕たちも〈いいよ〉みたいな」

――の子さんが決めた神聖かまってちゃんっていうバンド名については、どのような感想を持ちましたか?

mono「かっこわりぃ、って感じですね(笑)。絶対人に言えないなぁって」

ちばぎん「恥ずかしくて言いたくないですよ(笑)。前はヘルプだったので〈神聖かまってちゃん? 何でもいいんじゃない〉とか言っていたんですけどね」

みさこ「オタク臭いというか、アキバ臭がするなぁ……みたいな(笑)」

――もしバンドの総意で決めるのであれば、絶対に付かないバンド名だったというわけですよね。つまり〈の子さんが決めたからそれに従う〉ということだと思うのですが、やっぱり神聖かまってちゃんは、の子さんのバンドだということなのでしょうか?

ちばぎん「そうです。間違いないですね。事実、作曲からプロモーションに到るまで、彼が担ってきたバンドなので。僕個人としては、バンドでもプライヴェートでも、どうあいつを支えるか、というのが役目のような気がしています」

みさこ「私は、の子さんに対する好奇心でバンドに付き合っている、という感じなんですよね」

 

天才>奇人

 

――monoさんはリーダーとして、の子さんをどういうふうに見ていますか?

mono「いや、別にリーダーでもないんですけどね。の子に〈リーダーやってくれ〉と言われたから〈うん、いいよ〉と答えただけで(笑)」

みさこ「でも、の子さんはバンドの音楽を支える存在ですけど、mono君はバンドそのものを支えている、屋台骨みたいな存在なんです。桜の木だったら、の子さんが桜の花で、mono君が幹みたいな、そんな感じ」

mono「良いこと言ってくれるなぁ。じゃあ、そういう感じです(一同笑)。僕から見たの子は……難しいなぁ」

みさこ「反骨精神の塊かな。反抗期の子供って感じ?」

mono「そう言い切れるものでもないけど、グレてるっていうか、グレたがりっていうか……」

ちばぎん「それを子供って言うんだよ(一同笑)」

mono「総合的に言うと、やっぱり子供ですかね。これまでは、の子がやりたがること全部に〈いいよ!〉と言ってきたんですけど、いまは環境も変わって、自分も少しずつ変わってきて、全部〈いいよ!〉とはいかなくなってきて。なんとも言えない気持ちではあるんですけど……」

――みなさんは、の子さんのことを〈天才だな〉って思いますか?

ちばぎん「思います」

みさこ「ですね」

mono「天才だと思いますよ。ただ、ああはなりたくないです(苦笑)」

みさこ「それは満場一致(笑)。尊敬できない部分が多々あって」

mono「あれが才能のある人間だというなら、僕は才能なんていらないです。それくらい、振り回されてますね(苦笑)」

ちばぎん「天才>奇人って感じです」

――でもの子さんって、わかっていて、あえてやっているだろうな、と思えるところが多々あるじゃないですか。すべてわかったうえでひっくり返そうとしている、というか。

mono「きっと、そうなんだろうと思います」

ちばぎん「わかってやっているところもありますけど、素な部分ももちろんあります。でも、その境目がわからないというか。狙ってやっているおもしろさと、素のおもしろさが紙一重というか、共存している感じで」

mono「僕たちもいっしょにやっていて〈これは狙っているのか? 素なのか?〉って、付き合いは長いですけど、わからなくなることがたくさんありますね」

 

オタク的なメンタリティーは4人とも持っている

 

神聖かまってちゃん_A――バンド的に、〈リア充〉へのアンチってあるんですか?

ちばぎん「僕はないですけどね。の子が言っている〈死ね〉とか〈殺してやる〉も、別に〈リア充〉全般に向けられたものではないし」

みさこ「ただ、私たちが〈リア充か〉と問われれば、〈リア充ではない〉と答えますけど(苦笑)」

――でも、みなさんはオタク的なメンタリティーは持っているんですよね?

ちばぎん「そうですね、オタクだと思います」

みさこ「オタクです(笑)。しかも、音楽オタクではないし」

ちばぎん「僕はゲームとかアニソンがすごく好きだし」

mono「自覚はないんですけどねぇ。俺ってオタクなのかな?」

ちばぎん「普通の人はアップル・コンピュータのサイトなんて毎日チェックしないから(笑)。オタク的なメンタリティーは4人とも持っていると思います」

――楽曲制作の主導権は、完全にの子さんが?

みさこ「そうですね」

――神聖かまってちゃんとして曲が生まれるプロセスですが、まずの子さんがデモを作ってくるんですか?

ちばぎん「そうです。それに対して、メンバーそれぞれが自分のパートを噛み砕いて、スタジオで合わせていく……という感じですね」

――その過程で、曲が変わっていくこともよくある?

ちばぎん「結構あります。変えようという意識はないんですけどね」

みさこ「アレンジでいろいろ試したり……」

ちばぎん「結果的に〈最初と全然違うじゃん〉ということは、よくあります」

みさこ「の子さんの作るデモも、始めからかなり音が足してあるので、それをバンド・サウンドに直すという作業も必要なんですよ。それだけでかなり印象は違いますよね」

――『友だちを殺してまで。』というミニ・アルバムが完成しましたが、数ある楽曲のなかでこの7曲を選んだ理由は?

みさこ「割と私たちにとってメインと言える曲とか、人気の高い曲とかを詰め込んだらこうなった、という感じですね」

ちばぎん「いま、僕たちのベストがコレという感じです」

mono「そうですね。いまバンドで、ライヴでもちゃんとできるのがこの7曲という感じかな(笑)?」

みさこ「これを聴いてもらえれば、神聖かまってちゃんはわかってもらえるはずです」

mono「これで打ち止めですからね」

ちばぎん「そんなことないだろ(笑)。ネットで上がっている音源はもっとたくさんあるんですけど、バンドで再現できないものが結構あって。再現できる曲を前提で選んでいますから」

みさこ「やっといま、ジワジワと達成感みたいなものが湧いてきているんですよ」

ちばぎん「録音したのは去年なんですが、あの当時の僕たちにできることはすべて詰め込んだので、やっぱり達成感は感じますね」

――やっぱり、〈ニコ生〉で得る達成感とは違う?

mono「違いますねー。〈ニコ生〉の時なんて、酒飲んで、バカやって、我を忘れるだけですから」

ちばぎん「それはmono君だけです(笑)。〈ニコ生〉ってけなされることもあるし、怖いこともたくさんありますけど、ノリは友達に話しかける感覚に近いですからね」

みさこ「ショウと宅飲みの間みたいな感じかな?」

 

誰でも思うことなのに、誰でも言えることではないことが書ける男

 

――確かに〈ニコ生〉って、放課後に仲の良いクラスメイトとゲラゲラ笑い合っている感覚が共有できるのが魅力ですよね。さて、歌詞の話に移ります。すべての子さんが書かれた歌詞ですが、みなさんは彼の歌詞をどのように評価していますか?

ちばぎん「秀逸としか言いようがないですね。僕は特に、“ゆーれいみマン”の歌詞が大好きです。誰でも思うことなのに、誰でも言えることではないことが書ける男なんですよ」

みさこ「あと、メロディーと歌詞の融合が絶妙なんですよね」

――曲はどれも最高にポップだし。

みさこ「の子さんって、暗い曲を聴くとすぐに鬱になっちゃうらしくて。だからきっと、明るくてポップな曲が好きなんだと思います。ビートルズがすごく好きな人だし」

ちばぎん「B’zを借りようと思ったら間違えてビートルズを借りちゃったとか。それがビートルズの出会いとか言っていましたけど」

mono「あれ? 俺には“All You Need Is Love”を校内放送で聴いたからって言ってたけど……?」

みさこ「元々はお父さんがかなりのビートルズ好きだったらしいよ?」

ちばぎん「どれでもいいよ、もう(笑)」

みさこ「あっちこっちで適当なことばっかり言ってるから(苦笑)」

――monoさんは、の子さんの歌詞についてどのような感想をお持ちですか?

mono「毎回デモを聴いていて、〈これはアイツらしいな〉とか、〈今回はいまいちだな〉とか、そういう感じでしか聴いてないですね。でもたまに、僕がポロッと言ったようなことが歌詞に入っていて、〈上手いなぁ〉と感じることもあって。もう感情移入しすぎちゃってて、あまり客観的には見れないかもしれません」

――特にの子さんらしさを感じるところは?

mono「“ぺんてる”のヘンに韻を踏むところとかは、の子っぽいです。普段しゃべっている時もそんな感じでしゃべることがあるので」

ちばぎん「あと、“ぺんてる”の歌詞の〈どうでもいい〉。これは本当にどうでもいい感じが出ていて」

――〈死にたい〉という歌詞だって、人間誰もが一度は感じる普遍的な感情なわけで、みんなそれぞれ〈あー、人生リセットしたい!〉みたいな思いを抱えながら生きているんだと思うんです。そういう普遍的な言葉をあえて隠さずに、ポップなメロディーといっしょに切り抜くセンスが抜群で。セックス・ピストルズだって、いまの耳で何も知らずに聴いたら〈パンクって言うクセに遅いじゃん〉って思う現代っ子は多いはずだし(笑)。

みさこ「視点もそうですけど、の子君って言葉の選び方、メロディーの乗せ方にも、どこか現代っ子っぽさを感じますよね。でも、私以外の3人は現代っ子っぽいですよ。ライヴ前とか、ステージに上がる直前になってもまったくテンションが上がらないし」

――円陣組んだりとか、やるわけもなく(笑)?

ちばぎん「絶対にやらないですね」

mono「考えたことすらなかった(苦笑)」

みさこ「あえてやらないんじゃなくて、始めからそういう空気なんですよ。同い年の私が言うのも変だけど、3人はそこが現代っ子ぽいなぁって」

 

そもそも、俺たちってバンドなのかな?

 

――やっぱり神聖かまってちゃんは、上の世代のバンドとか、どこかのコミュニティーに所属しているバンドとはあきらかにメンタリティーが違う?

mono「違う存在になりたいとは思っているかもしれないですね。特別な場所にいたい、という思いはあると思います」

みさこ「もちろん、先代の音楽を聴きながらいまこうやってバンドをやっているので、上の世代や他のバンドに対するアンチはないです」

mono「それはの子も同じだと思います。他のバンドを潰してやろうとか、そういうアンチはないですね」

――いま、若くておもしろいバンドが本当に多いのですが、神聖かまってちゃんがシンパシーを感じるようなバンドっていますか?

mono「……いないですね」

みさこ「いないです」

ちばぎん「バンドとかではないですけど、インターネット文化とか、オタク文化に対するシンパシーというか、帰属意識みたいなものはありますけどね」

mono「俺はそれすらないかもな(苦笑)。わからないです」

――じゃあ、ロック・バンドだという意識は?

みさこ「それもないよね?」

ちばぎん「ないね」

mono「ミュージシャンでもないしなぁ。そもそも、俺たちってバンドなのかな(一同笑)? そこらへんの陰気なやつらが楽器を持っているだけですから。なんというか、そういう感じなんですよ」

ちばぎん「だからバンドは続けていきたいけど、この先も何も変わらないと思います」

みさこ「あとは、の子さん次第かな」

mono「そうだね。神聖かまってちゃんの今後は、良くも悪くも、の子のみぞ知るという感じだと思います(笑)」

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2010年03月10日 17:58

更新: 2010年03月10日 21:42

インタヴュー・文/冨田明宏

記事ナビ