神聖かまってちゃん 『友だちを殺してまで。』 ロング・レヴュー
音楽を聴くことにのめり込むきっかけとなった作品が何だったのか、なぜかまったく覚えていない。ましてや、ロックンロールとの出会い(を自覚したの)が誰の、どの作品だったのか……思い当たる曲はいくつかあるのだが、やはり定かではない。筆者の場合、ロックンロールはいつのまにか鳴り止まない状態になっていて、そのまま現在に至っている。
そのせいか、ソングライターのの子が自身のロック原体験を綴った神聖かまってちゃんの代表曲“ロックンロールは鳴り止まないっ”を初めて聴いた時には、小中学生の頃の自分といまの自分との両方に、しかも同時に対面するはめになって途方に暮れた。あれは去年の6月頃か。夏前だったと思う。そしていま、ファースト・ミニ・アルバム『友だちを殺してまで。』に収録された7曲を前に、やっぱり途方に暮れている。
今回のインタヴューでの子に直接話を訊くことは叶わなかったが、彼の経歴については、あまりにも赤裸々な、それだけに切実な歌詞を読めばある程度想像できる。いじめや不登校を経験して現在も半引き籠りの状態である彼の日常。だが、一見すると究極にパーソナルなその歌は、ある種のノスタルジーとシンパシーと共に聴き手の元に届く。つまり、彼は普遍を歌っているということだ。
そんな鬱屈とした言葉とは裏腹に、サウンドは眩いほどにキラキラとしたオルタナティヴ・ロックである。技巧的でないところが逆に堪らないセンティメンタリズムを醸し出すピアノの旋律が印象的で、耳当たりは非常にポップ。けれど、ジャンクなイビツさも……どこか80年代のジャパニーズ・パンクとナゴム系の匂いも放っている。
だが、そんな混沌のなかでもはっきりと聴こえてくるのが、甲高い声でつぶやいたり叫んだりする、の子の歌だ。吐き出さなければどうにかなってしまう、と言わんばかりの切迫感を持って歌う(かつ、失礼ながら、とてもマトモな人には見えない)彼の姿は実際に目撃するとしばらく夢に現れそうなほどの衝撃を受けるが、その強烈なインパクトは、本作でも十分に味わうことができる。
記名性の高い個性を擁していながら、世の大多数を占める匿名の人々の現実を的確に表現してしまうソングライターがごく稀に出現する。そして、この、の子という人はそういう種類の音楽家であるような気がする。だとすれは、神聖かまってちゃんが鳴らしている音楽は、現代を象徴する〈青春パンク〉と言えるのではないか――鳴り止まないロックンロールを聴くたびに、そんなことを考えたりしている。
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