チャットモンチー 『表情 〈Coupling Collection〉』
チャットモンチーから、久々のCDリリースとなる『表情 〈Coupling Collection〉』が到着した。その名の通り、これまで発表された10枚のシングルに収録のカップリング曲を網羅したアルバムだ。ただし、カップリング集だからといって〈企画モノ〉と侮ってはいけない。シングルには毎回オリジナル曲3曲を収録し、〈捨て曲なし〉の気概で臨んできた彼女たち。その時々のバンドの意志や大胆な試みを感じ取れるのがカップリング曲なのである。それだけあって今作も、ライヴで披露することの多い“湯気”や“片道切符”、CMソングにもなった“バスロマンス”など、隠れた名曲が満載の〈裏ベスト〉的な一枚になっている。アルバムは、全19曲収録の〈Disc-1 表情〉に加え、彼女たちらしい遊び心に満ちたアレンジと演奏が楽しめるアコースティック・セルフ・カヴァー5曲を収録した〈Disc-2 横顔〉も付属する2枚組。バンドの魅力が100%注ぎ込まれた作品になっているのは間違いない。
3月にはSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)への出演も含む初のアメリカ公演も実現。さらに5月からはカップリング曲のみのセットリストによる全国ツアー〈顔 to 顔 ツアー〉も予定しているチャットモンチー。改めて、デビューから約4年半の道程とバンドの〈いま〉を、3人に訊いた。
こんだけいい曲なのにお披露目できないのは寂しい
――今回の〈表情〉ですが、19曲が並んだのを見ての感想はどうでした?
高橋久美子(ドラムス/コーラス)「まとめてみて、いっぱい曲作ってき たなあ、いい曲作ってきたなあという実感はありましたね。デビューした頃は曲も少なかったからライヴでもカップリング曲を演奏してたんですけど、最近は やっぱり来てくれるお客さんのためにヒット曲のほうを選ぶことが多くなって。このアルバムのなかにも、ライヴで1回もやってない曲が何曲かあるんです。だ から、こうやってまとめて出すことで、もう1回返り咲くじゃないけど、みんなに認めてもらえるんちゃうかなって思って。嬉しいですね」
――そもそも、こういうカップリングのコレクション・アルバムを出そうという話はどこから?
福岡晃子(ベース/コーラス)「これは3人からの発案ですね。ライヴを やってると、シングルの表題曲だとすごく盛り上がってくれるけれど、カップリング曲だと知らなくてポカンとされることが何度かあって。そうすると、やっぱ りシングル曲をやって盛り上げたくなったりするんですよ。だから、どんどんカップリング曲を演奏する機会も減っていって。カップリング曲って全然知られな いなあと思って、曲が可哀想だという気持ちになってきて。でも出したい曲はいっぱいあるから、カップリングをなくすという考えには至らなくて。『告白』と いうアルバムを出すまでは絶対カップリングは入れ続けようと決めてたんです。ただ、ライヴで1回もやったことのない曲も何曲かあるし、もったいないとしか 言いようがなかったから。〈こんなに自信があるんですよ〉というのを、アルバムの形にして出したいって、3人で思って。だから、曲順も時系列じゃなくて、 アルバムとして聴けるような曲順にしましたね。デコボコしすぎている部分はちゃんとリミックスもして。アルバムという意識で作りました」
――じゃあ、アルバムとツアーは考え方としてはセットだったんですね。
高橋「最初に思い浮かんだのは、カップリングだけのツアーをやりたいと いうことだったんですよ。そのアイデアが1~2年前からあって。こんだけいい曲なのにお披露目できないのは寂しいから、カップリングだけのツアーをやりた いって言ってたんです。で、それだったらアルバムで出してあげるのが親切なんちゃうんかなって。『告白』のツアーの頃から曲が増えてきて、カップリングを やらないということが自分たちでも如実にわかってきたからだと思うんですね。〈この曲、出すけど聴かれんのや〉って思いながらカップリングを作ってるのが 寂しかった時期。だからこそ飛び抜けたおもしろいアレンジをやってたというのもあるんですけど」
――バンドにとってのカップリング曲の位置付けって、以前と最近のシングルで少しずつ変わってきてますよね。デビューの頃は、シングルの3曲をまとめて聴かせるという印象があったと思うんですけれども。あの頃の向き合い方は振り返るとどうでした?
橋本絵莉子(ギター/ヴォーカル)「最初は、シングルという作品を作っ ていたという感じでしたね。アルバムを作るのに10数曲入れるみたいに、シングルに3曲入れるという。3曲並べてひとつの作品です、という思いがすごく強 くて。そういうものだと思ってたし、当然全曲聴かれるものだと思ってたんですけれど。やっぱりリリースを重ねて曲も増えると、ライヴでやる回数も減って いって。カップリング曲に触れる機会が少なくなっていくし。扱いも変わってきましたね」
――“恋の煙”“恋愛スピリッツ”という、アルバム『耳鳴り』の時期でのシングルでのカップリングでは、自分たちとして思い入れが強い曲はどれでしょう?
高橋「やっぱり“湯気”じゃないですかね。いちばんライヴでよくやってた曲だし、みんな乗って騒いでくれてたりしたから。日の目を見ている曲ですね」
〈びっくりさせてやろう〉ってずっと言ってましたね
――サード・シングルの“シャングリラ”が、バンドにとってのひとつのターニング・ポイントになったと思うんですけれども。でも、その頃も3曲それぞれに一曲入魂で作ってるというシングルの作り方は変わっていなかったんでしょうか?
高橋「まさにそういう時期でしたね。どれをメインにしてもらっても構わない気分でやってました。どれがシングルとかアルバムに入るとかは関係なく、ホンマに全力投球で作ってました。表題曲よりアレンジがんばった曲もあるし」
――では、いまのタイミングから“シャングリラ”というシングルを振り返ると、どうでしょう? その頃の自分たちはどんな感じだったと思います?
福岡「なんも知らなかったな(笑)。無知だったというか。まず、“シャ ングリラ”がヒットするというか、名刺代わりになる曲だということを3人ともまったく思ってなかったのが印象的ですね。“コスモタウン”という曲と同じよ うな感じで昔からライヴでやっていて。30分ステージだったらこういうおもしろい曲も入れよう、というスタンスの曲だったんです。飛び道具的なイメージ だったから。誰がどういうふうに好きになるかわからんなって思ったし。その時からテレビに出るようになったから。自分の想いだったりバンドの空気感は、結 構カオスな時期でしたね。何がどうなってるか、わけがわからなかった。でも、曲だけはちゃんとしたい、というのをその頃から思うようになりました」
――“シャングリラ”“女子たちに明日はない”『とび魚のバタフライ/世界が終わる夜 に』“橙”という、アルバム『生命力』の時期のシングルのカップリング曲で言うと、すごく印象的なのが“バスロマンス”という曲なんです。あの時点では 〈チャットモンチーらしさ〉の外側にあるイメージの曲だったんですけれど、いま、この並びで聴くとそういう感じがしなくて。
高橋「あれは、確かに新しい切り口だったと思いますね。あそこで開けたからこそ、そのあとに繋がったものも沢山あるから。斬り込み隊長だったんでしょうね。あれだけポップなメロディーとポップな歌詞を、それまではなかなか堂々とやれてなかったんちゃうかなと思います」
橋本「あの曲はすごく難しかったのを覚えてますね。もとが幸せな歌詞で も、メロディーは別で考えたりしてたけれど、あの曲はそれ以外のものは当てはまらないという歌詞だったし。でも、それまで〈幸せだ〉という気持ちを歌った ことも演奏したこともなかったんですよ。レコーディングが難しかったのを覚えてますね。祝福するような気持ちで歌うということがわからなかったんですよ。 だから当時は苦労しましたね」
――同じような苦労のあった曲はありました? いままでの自分たちらしくないことにチャレンジした曲というか。
橋本「“風”かな。この曲はちゃんと煮詰めずにレコーディングに入っ て。アコースティックをちゃんとやったこともなかったのに、アコースティック・ギターの音が入ってたりするんです。いつも100%以上で振り切って演奏し てたのが普通だったから、ゆるくやるというやり方を知らなくて。気持ちいい感じのゆるさを出すのは難しいなって思いました」
――“リアル”もそういう感じじゃないですか。あそこまでギターが歪んでるけれど、疾走感で押し通すわけではなくて。
高橋「“リアル”も元々は全然違うアレンジで、そこからガラッと変えてこうなったんです。うちらは歌詞ありきですけれど、アレンジありきでもあるんですよね。それでまったく曲の印象も変わるから。そこは大事にしてますね」
――そのアレンジのおもしろさというのは、バンドを初めてからずっと意識してたんでしょうか?
福岡「最初からですね。昔はやっぱり女子だから男性バンドより細っこい 音と思われたくなかったし、アレンジが普通と思われたくなかったのがとにかくあって。〈びっくりさせてやろう〉ってずっと言ってましたね。曲を作る過程で も、スタッフの人がひとりでもいると〈それはないだろ〉って言われるようなことをやってるんですよ。いまだに、変なことばっかりやってますね。絶対サビだ ろと思わせるところをBメロって言い張ったり(笑)」
――アルバム『生命力』の頃はアレンジにしても、3人で必然性と説得力を持ったサウンドという意識が特に感じられたと思うんですけれども。
福岡「『生命力』の時はとにかくライヴを盛りあげようという意識でやっていて。アレンジでうまいこと乗せるように持っていくという」
橋本「ただ、『告白』を作ってた時も3つの音でという意識は変わらないんですよ。『生命力』の頃は、よりそういうのに執着してた時期かもしれないですね」
変に迷いすぎない。それがすごく良かった
――“ヒラヒラヒラク秘密ノ扉”“風吹けば恋”“染まるよ”という『告白』の時期のシングルから、意識的にカップリングというのが実験の場という位置付けになってきている感じがあるんですけれど。どのへんがターニング・ポイントになったと思います?
福岡「そもそも、『生命力』の後に出したシングルが次のアルバムに入 る、ということを意識しはじめたのがそのくらいの頃だったという(笑)。やっと2枚アルバム出して気付いたんですよね。その時までは、シングル1枚1枚に 必死だったから。毎度毎度で自分たちのベストを出してたんですよね。だけど次のことを考えようと言い出して、コンセプトを作ろうと言い出したのが『告白』 からだった。大人っぽいことをしようというか、年相応のことをしようみたいなことを決めて。アルバムに入るということを前提に表題曲のことも考えはじめ た。アレンジでもっとおもしろいことをやろうというのはその頃から考えてましたね。カップリングがあんまり気にされてないというのもその頃には気付いてい て。だからこそもっと目立たせることをやろうと思ったし。最後はシングルでもいいような“片道切符”とか“Good Luck My Sister”という曲をセルフ・プロデュースでやって。意地になってたかも(笑)」
高橋「もう〈出したるわい!〉という気持ちでしたね。この時はシングルでも勝負できるくらいの大玉を出してきたという感じでしたね」
――この頃のカップリング曲ではセルフ・プロデュースへの挑戦もありましたけれど。その計画はいつ頃からあったんでしょう?
高橋「『生命力』を作り終わった頃にはもうありましたね。で、まずは “three sheep”でやってみたという感じです。デビューの前からやってた曲で、ずっと連れ添ってきた曲だから。実験台といったら悪いけれど、この曲で試して、 その後は全曲をセルフでやろうと思ってました」
橋本「セルフ・プロデュースだと、決めるのが3人しかいないんで、ええ と思ったら次に行けるんですよ。その速さがありましたね。変に迷いすぎないというか。それがすごく良かったなと思います。〈どうなんだろ、これ?〉って 言ってる時間はいらないものだったというか。自信になりましたね」
――『告白』までアルバムを3枚作って、バンドにとって一区切りついた感覚はありました?
高橋「ありましたね」
福岡「『告白』が、自分たちの現在進行形を出せたという意味で納得できたものだったんですよ。『生命力』の時はツアーをしてても、まだ新しい曲をやりたいという気持ちが沸いていたけれど、『告白』が出来た時はいまの自分たち を見せられたという達成感が強かったです。だからあんまりリリースもしてなかったんですよね」
――ちなみに〈Disc-2 横顔〉のアコースティック・ヴァージョンはいつ頃に録音したものなんでしょう?
橋本「去年の10月です」
高橋「“ツマサキ”は外でレコーディングしましたし、スタジオでマイク1本で録ったものもあれば、教室をイメージした“サラバ青春”とかもあって。それぞれの曲の個性を活かしたシチュエーションで録りましたね」
橋本「5曲どれも違う感じでやりたいというイメージがあったから。次はライヴっぽくやってみようかとか、そうやっていろいろ決めました」
――では最後に。いま、バンドのこの先についてはどういう方向に向かっていくイメージがありますか?
高橋「とにかく、おもしろいと思うことをやりたいですね。そういうものが いっぱい浮かんできてるから。音源だけじゃなくてライヴもそうだし、自分たちの見せ方としてもですけれど。自分らでバンドをちゃんと動かしていきたいとい う思いがすごくありますね。そこはもっとできると思うし、おもしろいものができているから。その都度、やりたいと思ったことを形にできていったらいいと思います」
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