インタビュー

チャットモンチー 『表情 〈Coupling Collection〉』 ロング・レヴュー

 

チャットモンチー_J170〈持ち前の推進力は 「拙者、サムライスピリット」〉――チャットモンチーのカップリング・ベスト・アルバム『表情 〈Coupling Collection〉』のDisc-1のラストで耳に飛び込んできたこの歌詞に、思わず顔がほころんだ。

“恋の煙”(2006年3月)から“Last Love Letter”(2009年2月)までの約3年の間に合計で10枚。しかも、オリジナル曲を毎回3曲ずつ提示するというシングルの切り方は、生半可な心意気で成し得ることではない。そこには、音楽とみずからのあるべき姿に対する生真面目な理想と忠誠心が、またそれらをストイックに遂行しようとする頑なな鍛錬と行動力が――サムライスピリット(的なもの)がなかったか。

〈アルバム〉として聴かれる際の耐久性を考慮された全19曲は、ベスト盤にありがちな〈時系列縛り〉もなく、いわゆるアーカイヴ的な意味合いの作品とは趣が異なっている。全体の流れに馴染ませるために、再ミックスが施された楽曲もある……が、何より曲がどれも良い。そもそも、その時々のバンドのモードを端的に示した表題曲の対となった楽曲たちである。振り切れていないわけがない。加えて、Disc-2でのアコースティック・ヴァージョンに耐え得るほどに、骨格の強度も備えている。

男性目線ではどうなのかわからないが、同性からすると〈ああ、あるよね〉と思えるシチュエーションを時にリアルに、時にファンタスティックに仕立て上げたフィクションをキュートになぞる橋本絵莉子の歌と、カラフルに弾けるコーラスワーク。〈歌詞ありき〉と3人が口を揃えて語るだけに、中心にあるのは〈しなやかに闘う女子の日常〉を綴った言葉だが、そのメロディーを引き立てながらダイナミックに鳴り響くのは、USインディー~オルタナにも通じるタフでドライなギター・サウンドである。そのアレンジには、背伸びも禁じ手も感じられない。豊かな発想力と実験性、そして、いい意味で力の抜けたユーモアを注入した、素晴らしく風通しの良いロックンロールがここにある。

チャットモンチーは、〈3人きりで音を鳴らす〉という手法を潔く、かつ頑固に選択することで、ポップ・フィールドにおける自身の居場所を鮮やかに切り拓いてきた。そして本作は、そんなバンドの軌跡を追うことによって、音楽に対する彼女たちの真っ直ぐな姿勢――〈サムライスピリット〉を浮き彫りにした、珍しいタイプのアルバムである。またそこが、非常に3人らしい作品とも言えるだろう。

 

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掲載: 2010年03月24日 18:00

更新: 2010年03月24日 18:01

文/土田真弓

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