インタビュー

INTERVIEW(3)――キャッチコピー的な歌詞

 

キャッチコピー的な歌詞

 

――なるほど。で、今回のアルバムなんですけど、やはり夏に向けたアルバムってことになるんでしょうか。

土岐「そうですね。発売日がまず決まった段階で、夏の作品にしようと思いました。以前に『Summerin'』って夏向けのアルバムを出したんですけど、あれはカヴァー中心だったので、やっとオリジナルのサマー・アルバムが出せるなと。夏って実際には暑くて大変ですけど(笑)、音楽のモチーフとしてはすごく好きな季節なんですよね。あと、ドライヴ・ミュージックって言葉がありますけど、夏にクルマのなかで聴いてもらえるようなものにしたかったんです。その曲その曲でメッセージはあるんですけど、軽くも聴けるような作品にしたかったんですよね」

――深く考えなくても聴けるってことですかね。風景にもなり得る音楽というか。

土岐「そうです。〈“乱反射ガール”ってどういう意味だろう?〉って考えなくても完結できちゃうようなイメージ。“Sentimental”も歌詞をよく読むと悲しい感じなんですけど、サビで〈Sentimental〉って連呼することで、深く考えなくてもポップに受け入れてもらえるかなと。入り口はすごく広くしておきたかったんです」

――冒頭を飾るのが、最初にも話していただいたタイトル曲“乱反射ガール”ですけど、サウンドのエレクトロニックな質感に衝撃を受けました。

土岐「川口君は私の曲を書いてくれる時に、いつも何かしらのチャレンジをしてくれるんですよね。〈土岐さんてこういう感じでしょ?〉って曲を作るんじゃなくて〈こういうのをやってみようよ〉って提案してくれるタイプなんですよ。“乱反射ガール”は、このフレーズの意味とかを説明したうえで作ってもらって。だから、これが川口君なりの回答だったんだと思います。ただ、回顧主義なものにはしたくなくて、私が言ってる80年代感はあくまで表現の仕方なんですってことは話しました」

――結果的に当時の焼き直しではない、2010年型のシティー・ポップが誕生したんじゃないかと思います。

土岐「それから、この曲では歌を8ビートで乗せたかったんです。8ビートって日本語がぴったりハマるビート感で、昔の歌謡曲はそういう乗せ方が多いんですよね。いまのJ-Popだと、歌を英語的な譜割りで16ビートに乗せていくのが主流じゃないですか。でも今回は日本語を強く、しっかりと伝えたかったので」

 

土岐麻子_A1

 

――“乱反射ガール”“熱砂の女”“薄紅のCITY”という冒頭の3曲が、タイトルからして先ほどおっしゃられていたイマジネーションを掻き立てる感じですよね。それこそ80年代のコピー的ですし。

土岐「そうですね。“熱砂の女”もタイトルだけ先にあったんですよ。Goodings RINAちゃんにいただいた曲を聴いて〈あ、これを“熱砂の女”にしよう〉って思って。インパクトのあるテーマとか言葉を自分のなかにストックしてるんです」

――“薄紅のCITY”は、いしわたり淳治さんが作詞ですね。

土岐「今回、最初はすべて自分で作詞するつもりだったんですけど、淳治くんには頼んでみようと思ったんです。同世代だし、作詞家としてすごく好きだし、今回みたいなテーマを出した時にどういうアプローチをしてくるんだろうっていう興味があって。で、実際に会って話をいろいろしたんですけど、彼は野球少年だったし、青森出身でTVのネット局があまりなかったとかで、私が持ち出した80年代のCMなり広告なりを全然知らなかったんです(笑)。でも、〈何も言ってないけどリスナーが勝手に想像するような歌詞もおもしろいかもね〉なんて言ってくれて。それで出来た歌詞がこれなんですよ。いちばんキャッチコピー的な歌詞ですよね」

――土岐さんの作品は、毎回お馴染みの面々も参加しつつ、その都度違ったアーティストの方が入って来てますよね。

土岐「楽曲をお願いするのは、だいたいなにかしらの交流のあった方なんですよね。さかいゆう君にしても、(森山)直太朗君にしてもそうですし。ただ今回、桜井(秀俊)さんと(渡辺)俊美さんは、アルバムを作るにあたって初めてオファーしました。お2人はちょっと上の世代の憧れの方たちで、音楽シーンがすごい楽しそうな時の先輩というか。そういう方の曲を歌ってみたかったんです」

――それから、今回はロック的なニュアンスの楽曲も入っていて、そこも新鮮に感じました。和田唱(TRICERATOPS)さんとのデュエットによるマイケル・ジャクソン“Human Nature”のカヴァーもアコースティックではありますけど、アーシーでロックな感触があります。

土岐「去年billboard liveでやった私のライヴに和田唱君をゲストで呼んでデュエットしたんですけど、その時に“Human Nature”も歌ったんですよ。私と和田君の共通点にマイケル好きっていうのがあったし、私は以前にも“Human Nature”をカヴァーしてたので、じゃあこの曲をやろうかと。ライヴの時は和田くんのギター1本でやったんですけど、レコーディングでは和田君が凄いノッて来て、いろんな楽器を入れて。確かにちょっと泥臭いし、こういう曲はいままでなかったかもしれないですね」

――伊澤一葉さん作曲の“QUIZ”も最初はメルヘンな感じで始まりますけど、後半どんどんオルタナ・ロックへと突入していくような展開をみせますよね。

土岐「伊澤さんには今年の初めにヴァレンタイン・ライヴをやった時にピアノを弾いていただいたんですけど、そのツアーが終わった二日後くらいに今回の曲のデモが届いたんです。おもしろい曲ですよねえ。もともと制作の打ち合わせもしてないところでいただいた曲だから、アルバムのイメージにぴったり即しているわけではないんですけど、でもある意味で特殊なこの曲をぜひ歌いたいなあって思ったんです。あと、今回は自分がものを作るうえでの精神性みたいなものが明確に見えたので、音の傾向を絞らなくてもいいかなと思ったんですね。好きな音であれば、スタイルはなんでもいいというか。だから、いままででいちばんヴァラエティーに富んだ楽曲が並ぶ作品になったかもしれないですね」

 

▼土岐麻子のオリジナル・アルバム

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掲載: 2010年05月19日 18:00

インタヴュー・文/澤田大輔