clammbon『2010』
四種類のフォーマットでリリースされるクラムボン3年ぶりの新作『2010』は、ヴァラエティに富む内容ながら、
一貫してメロディの強さが際立つ作り。そこには、リスナーに対してブレやズレなしに、ダイレクトに届くものを
作りたい、という彼らの明確な意識が横たわっているのだった。
なんともまあヴァラエティ豊かな楽曲が揃ったな、というのが第一印象。クラムボン3年ぶりのアルバム『2010』は、壮麗で悠大なインストゥルメンタルで幕を開け、キャッチーで躍動的なポップ・ソング、メロウで叙情的なヒップホップ、フォーキーなタッチのバラード等々、様々なタイプの曲が色彩豊かに並んでいる。13曲でひとつの世界観を形作るというよりは、一曲一曲にそれぞれ独立した物語や世界が存在する、とでも言えばいいか。ベースのミトやドラムの伊藤大助が以前からアニメやアニソンを愛好していることはつとに知られているが、ひとつひとつの楽曲に密度の濃いストーリーが凝縮されているかのような本作は、まるで13本立てのアニメを見ているようでもある。
原田郁子(Vo.)「小淵沢で車に乗っている時、i-Podにミト君の作った<アニソン>っていうプレイリストがあって、それがかかると、どんなストーリーのアニメかは知らなくても、1曲ごとにちゃんと世界が見える。今回のアルバム聴いて思い出したのは、その感覚なんですよ。アニメの主題歌が集まった全集みたいなアルバムだなって。ひとつひとつの曲に主人公がいて、泣けるのもあれば楽しいのもある。全曲のPVを作ることになったのも、そういうアルバムの空気を汲み取ってもらえたから、自然にスタッフから出てきたアイディアじゃないかな、と」
ミト(Ba./etc.)「今回は時間がない中で短期集中で作ったし、無理にひとつのカラーでまとめようとは思わなかったから。極端に言えば、クラムボンっていうレーベルの『2010』っていうコンピだと思えばいい。サントラじゃなくてコンピレーション」
確かに1曲ごとに世界観が異なるアルバムだが、全体に通低しているのは、いつになくメロディの輪郭が際立っている、ということだろう。
ミト「セッションで即興的に演奏して、リズムやリフにメロディが乗っかるというのではなくて、その反対にしたかった。メロディが先にあって、そこに演奏が加わっていく感じ。しかも、デモを渡した段階で郁子が珍しく、ここはもうちょっとメロディを強くしたい、っていう要望が結構あった」
伊藤大助(Dr.)「(前作の)『Musical』は、メロディがありつつも、それと一緒に暴れたいっていう感じだったけど、今回はそういう温度の高さは要らないし、得点の対象にならないって思った。全ての中心をメロディが成しているのはデモの段階で見えていたから、そこに焦点を合わせて行くしかないなと」
皆が口ずさめるようなメロディの復権。それは、アニソンがチャート上位を占め、水樹奈々のような声優が紅白に出場するような動向を含め、同時多発的な動きだろう、とミトは分析する。そして、そういう時代の空気と無意識にリンクしたところが『2010』にはあるのではないか、とも。確かに、文化的な棲み分けと細分化が進み、メインとサブを分かつ中心点が消失した現代において、一体感や高揚感の源泉となるメロディは共通言語として機能し得るはず。
ミト「不安だし不安定な社会だからこそ、絶対的なもの、基礎や基盤となるものが求められる。地盤が緩んでいるからこそ、支えとなる柱が必要というか。このアルバムは、そういう社会や世界の空気とリンクしたんでしょうね。で、それと同じことが実は楽器にも言える。今まではゴーストノートって言って、聞こえているようで聞こえない音を入れて、その余白をリスナーに想像してもらっていたけど、今回は自分の頭で鳴ってる音は確実に入れたかった。つまり、多面的な見せ方じゃなくて、聴かせたいものをダイレクトに提示して、一度聴いたら分かるようなものにしたかったんです。色々なタイプの曲があってもキャッチーだと言ってもらえるのは、そういう意識があったからだと思う」
確かに、聴き手の想像力に委ねる、という曖昧な口実は本作からは感じられない。無論、音楽には曖昧だからこそどうにでも取れる、という楽しみ方もあるわけだが、『2010』はあえて余白や含みを排し、聴き手にダイレクトに届くように作られている。曲の言わんとしていること、個々の世界観が、ブレもズレもなく、ストレートに伝わってくる。
リスナーへの作品の届け方にもそうした意識は滲み出ている。『2010』は、アナログ、CD、i-Tunesでの配信、高音質限定配信という四種類のフォーマットでのリリース。また最近は、UstreamとTwitterを連動させ、ネット中継による公開インタビューも行った。ファンとのインタラクティヴなコミュニケーションもまた、聴き手とダイレクトに繋がりたいという欲求が発動させたものだろう。
原田郁子「なるべく間に人を介さずに、作り手から直接届くのが、いちばん安心できるし嘘がない。これってクラムボンが言い出してやってるんだ、クラムボン自体が動いてるんだっていうダイレクトさは、信頼関係につながると思うし、なんかワクワクするよね」
■ LIVE…clammbon tour 「2010」
6/16(水) 郡山 CLUB #9
6/17(木) 仙台 darwin
6/19(土) 秋田 Club SWINDLE
6/20(日) 盛岡 CLUB CHANGE WAVE
6/23(水) 旭川 CASINO DRIVE
6/25(金) 稚内 HEART BEAT
6/27(日) 札幌 cube garden
7/07(水) 名古屋 能楽堂
■ PROFILE… clammbon(クラムボン)
原田郁子(Vo./Key)、ミト(Ba./etc.)、伊藤大助(Dr.)。95年に始動、99年『はなれ ばなれ』でメジャー・デビュー。独自のスタンスでバンドからソロまで、多岐に渡る活動を続けている。
記事内容:TOWER 2010/5/20号より掲載