ユラユラと丁寧に紡がれてきた珠玉の作品をおさらい
ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクの諸作を思わせるザラついた感触のトラックの上で、独特のユーモアを醸す歌声がぼんやりと浮かぶ。そんな楽曲群には欠落点がゴマンとあるのに、どうにも完璧と言いたくなる説得力を有していて。キセルのメジャー・デビュー作『夢』の印象である。エンジニア・内田直之の手を借りて理想とする音の質感をストレートに表現した同作は、このデュオの本質がいちばん見えやすいアルバムだろう。続く『近未来』でも、揺らぎ感は活かしながら“渚の国”“ベガ”などしっかりとした構成を持つ曲が増加している。
その方向性がより顕著になったのが3作目『窓に地球』だ。共同プロデューサーに益子樹を迎え、YUKIに提供した“砂漠に咲いた花”のセルフ・カヴァーや“夢の手紙”など、以前と比べて背筋が伸びたようなポップソングが光る。音の粒がピチピチしているのだ。またセルフ・プロデュースとなった4作目『旅』は兄・豪文の叙情的な曲、弟・友晴の愉快な曲という対比が楽しいヴァラエティーに富んだ内容に。
そこから約2年半のブランクの後に発表されたKAKUBARHYTHM移籍第1弾『magic hour』は、軽やかさとまろやかさがアップした傑作となった。英国田園フォーク的な薫りがする表題曲、童歌的旋律が新鮮な“枯れ木に花”、高田渡が歌う光景を夢想してしまうジェントルなフォーキー・ナンバー“君の犬”など名曲揃い。ここで感じられる風通しの良さは、ニュー・アルバム『凪』にも確かに引き継がれている。
▼文中に登場した作品を紹介。
左上から、2001年作『夢』、2002年作『近未来』、2004年作『窓に地球』、2005年作『旅』(すべてスピードスター)、2008年作『magic hour』(KAKUBARHYTHM)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年06月22日 13:44
更新: 2010年06月22日 13:48
ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)
文/桑原シロー