CHEHON 『Road to island』
浪速のマイク持ちから、日本を代表するDJへ——スキルの向上だけでなく逞しさも格段にアップした彼はいま、旅立ちの時を迎える
「やること……と言うか〈やるべきこと〉は変わらないスね。前作も時間が経つとリリックが甘かったな〜と自分で感じる部分があったりして。アーティストである以上、そういう反省点は次にしっかり活かしていく、という繰り返しだとは思うんスすけど、今回はかなりコアにディープになったかなと思ってます。いわゆる簡単な……わかりやすいリリックはほとんどないですから」。
昔からレゲエ激戦区の大阪シーンで10代後半で歌いはじめ、“みどり”で各現場をボスした5年ほど前(20歳)から一気に台頭し、ラガなスピリットを軸にトンチの効いたニュー・ワード&ニュー・フロウを繰り出す歌い手として、先輩アーティストたちも舌を巻くほどの活躍を見せているCHEHON。各方面で高い評価を得た前作『RHYME LIFE』で、関西シーンの次世代の代表から〈客を呼べるエース〉の一角へと確実に喰い込み、全国各地のレゲエ・フェスやビッグ・ダンスを揺らすこととなるのだが、今年2月にリリースされた〈あらゆる面でコアなレゲエ〉曲“CHALLENGER”にも顕著だったように、ニュー・アルバム『Road to island』を完成させた彼は、この2010年に次なる次元へ突入したようだ。
「曲が溜まってくると言葉、フレーズやオチが前に使ったものと似てくるんで……。スティーヴン・マクレガーと作った“CHALLENGER”みたいな確実に以前の自分にはなかった曲を出せたおかげで、自分の歌い回しやキャラを守りながらも幅を出すことに徹底できた。トラック面では、スティーヴンには前作に続いてやってもらったんスけど、ロシアン(タリク“ロシアン”ジョンストン)やジャマイカでがんばってる同世代の日本人のGACHA×PANCHO、HIFANAなど今回初めて組む人も多くて、その部分でも刺激になりましたね。トラックメイカーとの呼吸というか、意思疎通もかなりウマなったかな、と。それは、相手が自分のことをよく理解してくれてるってことでもあるんスけど。HIFANAも自分のリクエストでやってもらって、いつもみたいにヴォーカルをスクラッチとかでイジってくるんかなと思ってたら、〈リリックがいいからちゃんと伝わるように〉とトラックに集中してくれて、逆に感謝してます。YA-LOW(PRODUCTION)のTERU君のコーディネートでジャマイカのラディン、MICKY RICHとやったコンビネーションも、構成を含めてかなりイイ感じに仕上がったし……。やっぱり、〈前作越えな(いと)!〉というハードルもあったんで」。
その最新にして最高傑作は、既発のHome GrownやCHOZEN LEEとのコラボ曲などを絶妙に配しつつ、サッカー・ゲームの如く(?)前半、後半のフォーマットのなかで見事な緩急で聴き入らせてくれる。あくまでも軸は変えず、やれることの幅を広げていくという〈リアルタイムの自分勝負〉的なスタイルは、彼が育った〈コアでナンボ〉の大阪シーンに通底するものだ。しかし、あらゆる面でパワーアップした新作にはある大きな覚悟があった。それは意味深なアルバム・タイトルにも表れている。そして、最後に配置された“SAYONARA JAPAN”に繋がるもの、でもある。
「アイランド=ジャマイカだけでなくて、自分の未来に道を付けるとか……他の意味もあるんスけど、リリース後のライヴで一区切りつけて、ジャマイカで勝負したいなと。それがどれくらいの期間になるかはわからないスけど、まずパトワをマスターしたいし、レゲエの本場で自分の腕試しをしたいんで。自分で言うてもうたら行動せなアカンやないですか? そんな簡単なことやないことはわかってるつもりですけど、自分でハードル上げるの結構好きなんで(笑)」。
▼CHEHON の近作を紹介。
2010年のシングル“CHALLENGER”(ARIOLA JAPAN)
▼『Road to island』に参加したアーティストの作品を紹介。
左から、HIFANAの2005年作『CHANNAL H』(W+K 東京LAB)、Home Grownの2009年作『DO THE REGGAE』(Knife Edge)、CHOZEN LEEの2009年作『RIZE UP』(LIFESTYLE/ユニバーサル)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年07月14日 17:24
更新: 2010年07月14日 17:25
ソース: bounce 322号 (2010年6月25日発行)
インタヴュー・文/二木 崇