INTERVIEW(2)――肯定しながら美しく見せる魔法
肯定しながら美しく見せる魔法
――そんな今作ですが、あらかじめテーマはありました?
真夏「なかったです。5曲目の“サファイアに告ぐ”っていう曲の歌詞に〈ファンタジー〉っていう言葉が出てくるんですけど、その時に、〈ああ、きっとこのアルバムはファンタジーっていう言葉がキーワードになっていくんだろう〉っていうことに気付いて。それも、制作期間の後半だったから、最初のコンセプトとかテーマとか、そういう一貫した何かはなかったです」
――その〈ファンタジー〉という言葉には、どういう意味が込めているんでしょう?
真夏「それは結構難しい質問なんですよね。何度かしゃべってるんですけど、うまく掴めてないところがあって。〈ファンタジー〉っていう言葉自体がすごい、不確定要素が多すぎるので……最近思うのは、〈不確定だけど、漠然とあっておっきいもの〉っていうイメージかなって。ハリウッドのファンタジー映画とかの影響が強いと思うんですけど、〈ファンタジー〉っていう言葉には、〈エンターテイメント〉っていうイメージも強いと思うんですよ。綺麗なことであれ、汚らわしいことであれ、それをすごく美しくパッケージしてしまう感覚というか、そういう魔法が〈ファンタジー〉っていう単語にはある気がします。いろんなものの、いろんな側面を肯定しながら、ちゃんと美しく見せる形にもっていける。だから使ったんだと思います、たぶん」
――いま、〈肯定〉っていう言葉が出たんですけど、私もSEBASTIAN Xの音楽って〈肯定の音楽〉だと思っていて。完璧に陽性な、人生賛歌というか。悲しい事柄も含まれているけれど、それも受け入れたうえで肯定していく歌だなあ、って。
真夏「はい。そういうところはありますね。人生だったら……ただの自分目線の個人的なことだったら、嫌なことはそのまま嫌なことだし、素晴らしいことはそのまま素晴らしいことなんだけど、歌にするのであれば、ちゃんと作品としてパッケージしたいと思っていて。そこが、前にやってたバンドでは陰な方法をとってたんですけど、それが自然と陽のほうになっていった感じです」
――個人的には、陰よりも陽の音楽のほうが、説得力を持たせるのが難しいと思うんですよね。でも、この作品にはそれがある。
真夏「『ワンダフル・ワールド』の時とか、全部の歌詞に〈それでも〉っていうのがついてるんですよね。〈それでもワンダフル・ワールド、それでもファンタジー〉っていう。どう考えたっていい世の中じゃないし、それは昔もいまも変わらないと思うんですけど、〈それでも〉って言ってったほうが、精神衛生上、自分のためにもいいだろうと思ってて」
――楽曲としても、バラードもあるとはいえ、どちらかというとお祭り感覚というか。私はソウル・フラワー・ユニオンの〈ええじゃないか感覚〉に近いような気がしたんですけども。
真夏「聴いたことは、ないんですね。うつみようこさんのYOKOLOCO BANDとかはありますけど、でも、最近そう言われることが多くて。ファーストの時は、たまって言われてて。あとはローザ・ルクセンブルグ、ソウル・フラワー・ユニオン。すごい変わってるのだと〈ZELDAみたいだね〉とかもあるんですけど、自分たちでこういうバンドになりたい、っていう意識はあんまりないですね」
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