インタビュー

奥田民生 『OTRL』

 

 

 

全楽器と歌をひとりで担当し、しかも公開でレコーディングして1曲を仕上げ、
さらに当日深夜に配信するという世界初のツアーが、ついに一枚のアルバムになった。
ツアー前のトライアルを含めた全11曲には、奥田民生のアーティスト魂と、
自らも音楽が大好きというファン魂が込められている。この画期的プロジェクトの真意は?!

 

「1曲の中にはいろんな音が入っている。それを一個ずつやったら、聴くしかないじゃないですか(笑)」(奥田民生)

 

 まず、なぜこの画期的なツアーをやろうと思ったんですか?

「まあ、レコーディングとライヴを同時に終わらせるっていうことですかね」

 

以前から「アーティスト活動の2本柱は、ライヴとレコーディングだ」って
言ってきたけど、それを同時にやるっていう。  

「同時にっていうか、ライヴは当然ライヴだからみんな見てるけど、
レコーディングっていうものを、どういう感じでやってんのかなと
思ってる人もいるかなと。
1曲の中にはいろんな音が入ってるわけですよね。
こっちにしてみれば、お客さんはどんだけ全部の音を
理解して聴いてるのかなと。
それを一個ずつやったらさ、聴くしかないじゃないですか(笑)
「そうか、そういうふうに成り立ってるのか~」と。
わかりやすいっちゃ~わかりやすいかなと思って。
ただ、お客さんがあんまりジーッと見ないようには工夫しましたけど。
まあ、やってることはただの<作業>ですから(笑)」

 

 ひとつひとつの音をみんなの前でやった成果は?  

ある程度、予想通りだったかな。こういうことも楽しいよっていうのを見せられた気がする。
感心してもらえたりする瞬間もあったり。自分も、思ったよりドラムうめーなって思わなかったし(笑)。
他に誰もやってないことだっていうのも、一方で「別にやんなくていいよ」っていう人がいて
当たり前の話で。画期的なことをやったって言いたいんだけど、画期的とまではっていう感じですね

 

 でも音楽作りの舞台裏を見せたのは、画期的だと思う。

 「うーん(笑)。ただ<隠し事なし>っていうムードは出せたかな。
今はコンピュータで歌や楽器を直したりしてる人がたくさんいる。
そういう世の中に対しては、そうとう潔いレコーディングですよ。
でも「どうだ、俺は偉いだろう!」っていうわけにいかない。当たり前のことだからね」

 

 


 ツアーで「整形の人ってみんな同じ顔しててつまんないでしょ。音楽も同じ」って言ってたのが
いちばん面白かった。

「整形の話はね、最近よくします(笑)。音楽もそうだけど、イジると同じことになるんですよ、
結局同じことをするから。しかも、直す人が同じだったりするし(笑)。
整形の人もね、本人はちょっときれいになりたいだけで、
別に人と同じようにしたいわけじゃないのに、なんか自分ではわかんないんだけど、
気づいたら一緒になっちゃってるという」

 

難しいところですね。

 「音楽の場合、きれいに修正しても、悪くなることはあっても良くなることは無いんだよなーと
俺は思うんですよ。こうなったら、45歳越えてからじゃなきゃ直しちゃダメにするか」

 

 年齢制限! 誰のこと言ってんですか(笑)。

「俺。だから俺は、もうやっていいんだよ」

 

でもやらないでしょ?

「このアルバムの<すっごい直したヴァージョン>を出そうかな。たぶん“恋のマイアヒ”みたいになるな(笑)」

 

 あはは(笑)

 「まあ、そっちがいいっていう人も当然いるわけよ。
でも俺の好きな音楽は、何かがヨレたら、それを直すんじゃなくて、ヨレたなりのことを他ですると、
それが曲の特徴になるっていう。だって、ヨレちゃうのは、間違いとは違うからさ」

 

  『OTRL』にもヨレてる箇所がいくつもあるけど、それを<今日の思い出ってことで>って言って、直さずにやってた。

 「それがいいんですよ(笑)」

 

 

 

 いつも自分がやっている音作りを見せたかったんですか?

 「それはちょっと違う。ツアーとしてやってるわけだから、どこでもできるっていう風じゃないとさ。
街に出とるわけで、出張してるわけだから。ステージでは<レコーディング・サービス>って
書いてあるシャツを着てたけど、ダスキンとかクラシアンと一緒だよ。
8,400円くれたら、水まわりのことはなんでもする(笑)。
シュポシュポってやるだけでも8,400円ですからね。高いんです」

 

 で、アルバム・ジャケットは、なんでサルだったんですか?

 「ジャケットはどうしようかって言ってて。今回、俺が見られてる感じが動物園っぽかった。
基本的にライヴってみんなに見られるから動物園なんだけども(笑)、
動物たちは別に見られるのを意識しないでしょ。今回はなんかそんなムードがあったわけよ。
それがぼんやり思い浮かんで、動物に俺と同じ服を着せて撮ろうってなって。
最初、シロクマとか言ってたんだけど、なかなかシロクマの都合がつかなくて、
サルになりました(笑)。あんまり、意味はないです」

 

 

■ PROFILE…奥田民生(おくだ たみお)

 日本のロック・シーンにおいて、ミュージシャンからリスナーまで最も広く愛されているアーティストの一人。
昨年復活したロック・バンド「ユニコーン」のヴォーカルやソロとしても精力的に活躍している。 

 


記事内容:TOWER 2010/08/05号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2010年08月04日 12:00

ソース: 2010/08/05

平山雄一