インタビュー

FIRE BALL 『ZERO』

 

築き上げてきたものをリセットし、ふたたびダンスホールの現場とじっくり向かい合った新作——受け止める覚悟はできているか?

 

 

これまでアルバムにはじっくりと時間をかけるケースの多かったFIRE BALLが、制作期間3か月ほどにしてニュー・アルバムを完成させた。前作『Don't Look Back』から約1年半を経た作品とはいえ、その短い制作期間にメンバーの足並みは当初揃わなかったという。

「〈良いものを作るには時間が欲しい〉って意見があったり、〈そんなこと言ってねえでやって乗り越えてこうよ〉って意見をぶつけ合って最終的に一つになった。そこでやっぱり俺らは意見を出し合って出来ているグループだなと思ったし、そういうところで動いていくのが〈ZERO〉ってことかなとも思った」(TRUTHFUL a.k.a. STICKO)。

MIGHTY CROWNファミリーとして今年の活動に掲げたテーマを、そのまま持ってきたアルバムのタイトルは『ZERO』。プラスでもなければマイナスでもない〈ZERO〉、無の〈ZERO〉、戻るべき原点たる〈ZERO〉、あるいは何かの新しい始まりとなる〈ZERO〉──このタイトルにメンバーもさまざまな意味を読み取ったようだが、「音楽と出会って、音楽を始めて、その音楽が一般の人に広まったらいいなっていう純粋な気持ちをもう一度改めて見直してみよう」(TRUTHFUL)という思いは、制作開始と共にメンバー(とMIGHY CROWNファミリー)間で共有され、レコーディングにも反映された。

「勝手に一人一人を走らせる前にちゃんとみんなで話して、曲のイメージを詰めて、みんなで一行ずつ書いていったようなノリ。誰かがメロディーを出して、〈そのメロディー、いいじゃん〉ってなったときから内容をもっと詰めていくみたいな」(SUPER CRISS)。

「どのアルバムもそうだけど、やっぱり良いものを作りたい。そのためにいままでだと時間をかけたやり方が多かったけど、今回は完全に反対。それと同時に、自分にかけていたリミットもアルバムで破壊できた。ファミリーの繋がりもさらに強くなったし、みんなが意見を出し合って建設的に作れたんじゃないかな」(JUN 4 SHOT)。

そうした行程と作業が短期間だったがゆえの「集中力」(SUPER CRISS)、「前向きな試行錯誤」(CHOZEN LEE)のおかげもあってか、結果的に『ZERO』はこれまでの彼らのどのアルバムとも一線を画すものとなっている。彼ら自身がプロデュースに積極的に関わり、打ち込みのサウンドに特化したことがその最たる要因だろう。

「いままでスカやルーツ・ロックなどレゲエのあらゆる要素を一つのアルバムに詰めて、〈これがレゲエだ〉って提示する自分らの役割も意識しながら作ってきた部分が強かったけど、今回はダンスホールの現場のサウンドに寄せた」(TRUTHFUL)。

「〈現場を意識している〉って言っても、実際の現場はジャマイカの音ばかりでホントにコアな人たちだけで盛り上がっちゃっているところがある。でも、日本にもかけられる曲はあるし、もっと良い感じに繋げられるんだけどなあっていう。今回のアルバムではそこをなんとか打破したいと思っているし、これをどうにかセレクターに料理してほしいなって」(CHOZEN LEE)。

一時のブームが落ち着き、足元を見つめるときを迎えたジャパニーズ・レゲエ。FIRE BALLが新作で彼らの出自とも言うべき〈現場〉へとふたたび向かったのも自然なことだ。だが、〈我ら決して動じない/Because 何も無いところから来てるのさ〉(“Zero”より)と歌える4人の音楽は強い。

もっとも、『ZERO』はジャパニーズ・レゲエの明るい面を照らしているが、それは彼らの言う〈現場〉にのみ留まるものでもない。それはまさに収録曲のタイトルよろしく〈Reggae's Not Dead〉をレゲエの外にも広く響かせるのだ。そう、レゲエは決して終わらない。「残っていく曲を作ろうってことは常に意識しているけど、この先ずっと新しいレゲエを作り続けていくって気持ちも込めた」(TRUTHFUL)と語るアルバムがそのことを教えてくれるだろう。

 

▼関連盤を紹介。

左から、2009年のコンピ『MIGHTY CROWN PRESENTS LIFE STYLE RECORDS COMPILATION VOL. 3』(LIFESTYLE/EMI Music Japan)、CHOZEN LEEの2009年作『RIZE UP』(LIFESTYLE/ユニバーサル)、TRUTHFUL a.k.a. STICKOが参加したDAISENの2010年作『TIME CAPSULE』(dandy community)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年08月30日 14:18

更新: 2010年08月30日 14:18

ソース: bounce 323号 (2010年7月25日発行)

インタビュー・文/一ノ木裕之

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