インタヴュー②「繊細になることも必要だし、鈍感になることも必要。両方を持ち合わせてないと、異文化の中に飛び込んでいくのは大変です。」
「繊細になることも必要だし、鈍感になることも必要。両方を持ち合わせてないと、異文化の中に飛び込んでいくのは大変です。」
― 渡辺さんなりの英語の習得の仕方やを教えて下さい。
「もう目的しかないですね。よく“英会話はどうやったら上達するんですか?”
と聞かれるんですけど、何のためにやるのか、という目的のみです。
基本的に僕も40歳過ぎてから、こういうことやり始めましたからね。
この時期から撮影が始まるんだと決まったら、正直もうやらないとダメなんですよ。
今回もコンテンポラリーな映画なので、今までの英語のスピードでは無理なわけです。
それなりの会話力を構築していくようにしました。」
「撮影中も、“そういうところはどうなの?”という話を
お互いにしましたね。とても抽象的な話ですから、“どう感じれば良いの?”と
折りに触れて聞いてみたり。もうみんなプロですからね。
ジョセやエレン・ペイジは子役のときからやってるから、
自分達のマインドコントロールは本当にすごいんですよ。
そういう部分で学ぶべきことは多かったですね。」
―世界で活躍する俳優として、日本人として求められていることは?
「求めている側が日本の何を知ってるのかというのもありますし、
自分の中の日本らしさとは何かというのもある気がします。
僕個人のレベルでいうと、タッチが違う。
油絵で塗り重ねていくような表現方法とは違って、一筋で書いた中に
どこかに奥行きを感じさせるような描き方が僕のタッチに近いんです。
もしそのバランスの中で欲しいと思われれば、僕には需要があるのかなと思います。
僕がそのやり方を続けるべきなのか、その中に少しでも色を足してった方が良いのかは今後の課題。
変えないほうが良いのかもしれないし、それは作品によっても求められ方によっても違うと思います。
僕が日本人だからということだけを主張しててもそのことは成立しない。
日本人自体が何層にも分かれてるから、一概に言えないですけど、
古いタイプの日本人という求められ方もまだあると思います。
―渡辺さんが世界に切り開いた道のあとに続いて、
浅野忠信さんや、加瀬亮さんが世界の映画に出演するようになった現況がありますが、
最も現場で気をつけなければならないことは?
「俳優としてのスキルを積み重ねていくこと、常にフレッシュであること。
俳優として守らなければいけないことと、それを全部捨てさらなければならないことの
両方を兼ね添えることが出来る人でないと難しいと思います。僕はその連続でした。
自分の持ってる価値観を全部捨て去ることも必要だし、これだけは守らなければならないと思うことも必要。
すごく繊細になることも必要だし、鈍感になることも必要。
その両方を持ち合わせてないと、異文化の中に飛び込んでいくのはなかなか大変なことです。」
■ PROFILE…渡辺 謙(わたなべ けん)
2003年公開された『ラストサムライ』で海外映画に初出演を果たす。
劇中で、その圧倒的な存在感はひときわ異彩を放ち、世界各国から注目を浴びる。
2006年には『硫黄島からの手紙』で、栗林忠道役に大抜擢され、
高い演技力が評価されナショナル・ボード・オブ・レビュー最優秀作品賞をはじめとする賞を獲得。
日本国内・海外双方において映画を中心に幅広く活躍し、
日本人で世界的に最も知名度の高い俳優の一人である。
『インセプション』では、物語のキーマンとなるサイトーを好演。
TOWER THEATER
2010/11/20号より掲載