LONG REVIEW――TINIE TEMPAH 『Disc-Overy』
ディジー・ラスカルがポップ・ラップ路線で成功を収めて以降、アンダーグラウンドでカッティング・エッジな表現を、メジャーではポップ・スタイルと使い分けることで、ガラージ/グライム・シーンからはチップマンクやティンチー・ストライダーなど新たなスターが誕生している。これはアングラ界のMCたちが、ポップ・フィールドでも渡り合っていけることを証明した最近の潮流でもあるが、2010年のUKチャートを席巻したタイニー・テンパーも、そんな現在の流れを象徴するMCのひとりだ。
タイニーは大御所プロデューサー、エージェントXとの共演をはじめ、ガラージ・シーンと交流がある他に、2007年のミックステープではUSヒップホップの影響を吸収したグライミーなサウンドも披露したりと、アングラ世界においてさまざまな形で腕を磨き、評価を勝ち取ってきた。
正式なデビュー・アルバムとなる『Disc-Overy』はそのキャリアの集大成であり、アーバン界のトレンドとUKベース・ミュージックがクラッシュしたユニークな作品へと仕上がっている。その好例となるのがマグネティック・マンを彷彿とさせるダークなビートとキャッチーなフックが耳を惹く“Simply Unstoppable”、重厚なエレクトロ・ヒップホップからドラムンベースへと転調する“Pass Out”だろう。こういった英国印のディープなトラックを格好よくキメ、ヒットさせてしまうあたりに、タイニーの凄さが表れている。2011年も彼に期待だ!