インタビュー

DEADMAU5 『Deadmau5』

 

「マスクをつけて初めてオーディエンスの前に立った時のことを、いまも鮮明に覚えてる。みんな戸惑っていた。〈誰だこいつ? マジかよ?〉って一瞬思ったようだったけど、すぐに受け入れてくれたよ。ヘルメットのライトが点いたとたん、みんなビートに乗って狂ったように踊りはじめたんだ」。

人を食ったようなネズミを頭にかぶったその向こう側で、デッドマウスがどんな表情をしているのかはわからない。この種のギミックを上手くイメージ作りに繋げているという意味では、ダフト・パンク以来のアプローチとなるだろうか。ただ、その中身=ジョエル・ジマーマンは別にそのナーディーな風貌を内緒にしているわけではない。コンピューターの内側でネズミの死骸を見つけたことに起因するらしき名前を、記号めかして〈deadmau5〉と綴るあたりはいかにもオンラインを徘徊するネズミのようだが、実際にチャットの際に使うハンドルネームとして使えるように捻ったスペリングにしたのだという。

そんなジョエルは、あのナイアガラの滝で知られるカナダはオンタリオ州のナイアガラフォールズで生まれ育っている。大都市のトロントからは75マイル。子供の頃からコンピューターに夢中だったという彼は、15歳の時にチップチューンを作りはじめたそうだが、「当時ナイアガラフォールズで画期的だと思われていた音楽はバビロン・ズーだったよ(笑)」という環境にあって、その嗜好が周囲に理解されることはなかったのだろう。

「その頃は古いコンピューターのチップを使っていた。エイフェックス・ツインみたいなIDMだったけど、何となく作っていただけで、いまの俺の音楽とはまったく違うものだったな」。

地元のラジオ局でダンス・ミュージックの番組に関わる一方、自作の音源がトミー・リーに気に入られてメソッズ・オブ・メイヘムのアルバムに携わったりしながら、彼は早い段階でMySpaceを活用して、徐々に活躍の場をデスクトップの外へと広げていく。なかでもキャッチーなプログレッシヴ・ハウスに仕立てられた“Faxing Berlin”(2007年)はクリス・レイク経由でピート・トンの手に渡ってBBCのRadio 1で紹介され、奇妙な名前とネズミのアートワークを世に知らしめる結果に。本人も「ダンス・ミュージックの歩みに俺が影響を与えられたことは、嬉しく思っているよ」と語る通り、そのダイナミックなトランス・サウンドはヨーロッパを中心に大きな潮流を生むことになる。

また、その“Faxing Berlin”を含むヒット作『Random Album Title』(2008年)に収められた“Brazil(2nd Edit)”はカイリー・ミノーグにネタ使いされ、最近もアレクシス・ジョーダン(ジェイ・Zとスターゲイトが送り出した新人)の“Happiness”でもサンプリングされたばかり。汎用性のあるネズミ印のエレクトロニック・サウンドは、デヴィッド・ゲッタ以上に大きくクロスオーヴァーしていく可能性がある、ということだろう。

一方で「他の奴らがターンテーブルで曲を作っている間、俺は世に出て間もない技術の習得に励んでいたんだ」と自負するように、いち早くDTMに取り組んでいた彼は、いまでは音楽制作ソフトやアプリケーションの開発を手掛け、自身のショウで使用するプログラムもみずから開発しているのだそう。つまり現在の彼は最先端の技術を採り入れているのではなく、その技術を作り出す側にいるのである。

「俺はできるだけ自分のサウンドを使おうと心掛けている。デッドマウスを観にきてくれた人はデッドマウスのサウンドが聴きたいだろうからね」。

なお、2010年の〈サマソニ〉出演を過労によってキャンセルした彼は、最新オリジナル作『4×4=12』に“I Remember”などの代表曲を追加した『Deadmau5』でようやく日本デビューを果たした。凶悪なネズミの表情を象ったライトが今度こそ日本で点灯される時を心待ちにしていよう。

 

PROFILE/デッドマウス

カナダはトロント出身のジョエル・ジマーマンによるプロジェクト。2005年に自主配信した『Project 56』よりデッドマウス名義での制作を始め、2006年には『Get Scraped』『Vexillology』とオリジナル・アルバムを連続リリース。スティーヴ・デューダとのBSODでも活動する傍ら、2007年に発表した“Faxing Berlin”が世界的なフロア・アンセムとなり、翌年の“Ghosts 'n' Stuff”は全英12位まで上昇するポップ・ヒットを記録している。UKでメジャー・リリースされた2009年作『For Lack Of A Better Name』ではジュノ・アウォードを受賞。2010年末に発表した『4×4=12』も話題を集めるなか、同作をベースにした日本編集盤『Deadmau5』(EMI Music Japan)をリリースしたばかり。

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掲載: 2011年03月04日 15:42

更新: 2011年03月04日 15:42

ソース: bounce 329号 (2011年2月25日発行)

構成・文/出嶌孝次