新メンバー=ヒダカトオルとの素敵な化学反応が生んだ『ACME』の背景盤
ただでさえ洋楽マニアが集まったMONOBRIGHTに、さらに〈超〉の付くマニアであるヒダカが加入したのだから、さあ大変。新作の元ネタ(!?)の話となると固有名詞がポンポンと飛び出し、いつまでも話していられそうなのだが、やはり重要なのは桃野たちが後追いでしか聴けなかった80年代の音楽を、ヒダカがリアルタイムで体験していることだろう。それによって楽曲の説得力が以前よりも増しているのだ。例えば、“踊りませんか”は、桃野がラプチャーやレディオ4といった2000年代のディスコ・パンクを雛型にしていたのに対し、ヒダカがこっそり思い浮かべていたのはバースデイ・パーティだったという。またヒダカの加入後、〈ニューウェイヴとは何か?〉という話をよくしたそうで、その結論は南国テイストの冒頭2曲“淫ピーDANCE”と“DANCING BABE”によく表れている。
「要はニューウェイヴってブラック・ミュージックの復権だったんですよね。リズムをものすごくフィジカルにして、そこに洗練されたメロディーを乗せる、みたいな。それはカルチャー・クラブもデュラン・デュランもみんなそうだったんですよ。そこをもう一回やったのが、ヴァンパイア・ウィークエンドであり、パッション・ピットなんじゃないかって」(ヒダカ)。
アルバムの冒頭が〈南国ゾーン〉なら、中盤には〈シューゲイズ・ゾーン〉が登場する。“スロウダイヴ”は文字通りスロウダイヴやマイ・ブラディ・ヴァレンタインといったUKのバンド、一方で“夜明けのバル”はヨ・ラ・テンゴなどUSのバンドを意識したという。また、ヒダカの加入に刺激を受けて、桃野が「初めて買った洋楽」だというバッド・レリジョンなサウンドを露わにした“NO CONTROL”をはじめ、両者がそれぞれの好みを熟知し、良い相互作用を生んでいる曲が多い。
「“宇宙のロック”はもともと10代の頃に作った曲で、最初はeastern youthとかbloodthirsty butchersのような、とにかく轟音でグワーッていうイメージだったんですけど、それをいまのアプローチでやるならELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)のようなスペイシーさを入れたいと思って。でも4人の時ちょっとELOに寄りすぎたんで、ヒダカさんにエモさを引き戻してもらって」(桃野)。
「“Timeless Melody”は、(メンバーが)トッド・ラングレンとかXTCが好きだって言ってたんで、そういう跳ねてるポップな曲を歌わせたらハマるんじゃないかと思ったら、まんまと。まだバンド然としてた頃のXTCかな」(ヒダカ)。
そして、桃野が「いちばん『ACME』を象徴する曲作りだった」と語るのが、ヒダカが作曲したラスト“WONDER WORLD”である。
「インストを作ろうとジャムってて、みんなで考えたコード進行に俺がメロディーを乗せちゃったんです。当初のイメージはデペッシュ・モードだったり、あとドイツの暗い感じ」(ヒダカ)。
「ヒダカさんのメロディーがあって、みんなでアレンジして、そこに僕が歌詞を乗せるっていう、ホントに〈五位一体〉で作った曲だと思うんですよね」(桃野)。
▼文中に登場したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ラプチャーの2006年作『Pieces Of The People We Love』(Vertigo)、バースデイ・パーティの81年作『Prayers On Fire』(4AD/Buddha)、ヴァンパイア・ウィークエンドの2009年作『Contra』(XL)、 パッション・ピットの2009年作『Manners』(Frenchkiss)、スロウダイヴの91年作『Just For A Day』(Creation)、ヨ・ラ・テンゴの2009年作『Popular Songs』(Matador)、バッド・レリジョンの89年作『No Control』(Eptaph)、eastern youthの2009年作『歩幅と太陽』(裸足の音楽社/バップ)、エレクトリック・ライト・オーケストラの76年作『A New World Record』(Columbia)、XTCの78年作『White Music』(Virgin)、デペッシュ・モードの2009年作『Sounds Of The Universe』(Mute)
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