インタビュー

eastern youth 『心ノ底ニ灯火トモセ』

 

2009年、病に倒れた吉野寿。一度はバンドを諦め、そして劇的に立ち上がり原点に立ち返った彼の、静かに燃える言葉を聞け!

 

 

 

手に取ったサンプルCDのわずかな重量からも命の重みがズシリと伝わる、というのは誇張ではない。2009年9月、急性心筋梗塞に倒れた吉野寿(ギター/ヴォイス)は、もうバンドはできないと一度は諦めたという。そこからふたたび立ち上がるまでの激的な心境の変遷が、いまに至るすべての始まりだった。

「集中治療室に寝転んで、悲しく諦めたわけですよ。〈せっかくバンドで食えるようになったのにこれで終わりか、空しいな〉と思ったけど、でも待てよと。もう40歳も越えたし、ほかに仕事もできないし、どういう形でもギターを弾いて大声で歌い散らすことを手放さないで、最後まで付き合ってみようと。それで駄目になるんだったら、どう駄目になっていくのか見ものだぞと思ったわけ。で、退院して、リハビリして、スタジオに入って、ワン、ツー、スリー、フォー、バン! とやった時に、まったくブランクを感じなかった。減量して身体も軽くなって、かえって動くようになったぐらいで。知らず知らずに溜まっていた閉塞感みたいなものもゼロになって、もう一回バンドを組み直した気持ちになったんですよ。で、駄目になってもやる覚悟はしたわけだから、バンドごと真っ直ぐ駄目になってやろうと思ったわけ。誰が何と言っても、一人も聴かなくなってもやってやれと思って、作ったアルバムがこれです」。

新作『心ノ底ニ灯火トモセ』の1曲目は“ドッコイ生キテル街ノ中”。曲が出来た順番に並んでいるアルバムのなかで、この曲が持つ重厚なスピード感とメロディーの解放感、言葉に込めた誠実な力は象徴的だ。ほとんどの歌詞を「吉祥寺あたりの路上を歩きながらケータイのメモに入れたりして」作ったという、吉野の目に映る街のなかの人間の営みが、ひときわ鮮やかに描かれている。

「早い時間から酒場にいるような奴らは、ほんとに駄目な奴らばっかりですよ。で、俺もそうなんですよ(笑)。〈俺と同じ駄目な奴、いっぱいおるわ〉と思って、でもドッコイ生きてるわけですよ。それが嬉しくてね。要するに言いたいことは、世の中が全員俺のことを忘れても〈俺は俺がちゃんと生きてることをハッキリさせてやるからな〉という気持ちを、一発でわかるようなリフにしたかったんですよ」。

“這いつくばったり空を飛んだり”“靴紐直して走る”“東京west”“砂を掴んで立ち上がれ”“雑踏”——人間の生きる街が舞台であることに変わりはないが、これまで以上に直接的に、抽象的な表現を排した吉野の言葉は、確かに変わった。いや、原点に向けてもう一度絞り込まれたと言ったほうがいいかもしれない。一度は死の淵を覗いた男が掲げる『心ノ底ニ灯火トモセ』というタイトルは、静かな力強い決意を持って、聴き手に〈お前はどうだ?〉と問いかける。

「俺はずっとそう思って生きてきたんですよ。俺にとってこの10曲は、いままで作ってきた曲も、これから作る曲もそうだけど、灯火なんですよ。俺の心の底に灯された、俺が生きるためのちっちゃい灯火なんですよ。誰でもちっちゃい灯火さえあれば歩いていけるし、それがなかったらどんなにお金を持っていても、生きていけないんですよ。そこからもう一回始めたかったんですよね。だからこういうタイトルにしたし、そういうアルバムになったと思ってます」。

 

▼eastern youthの関連作品を紹介。

eastern youth作品のアートワークを手掛ける吉野有里子の作品集「吉野有里子画集」(吉野製作所/SECRETA TRADES)

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掲載: 2011年05月27日 23:27

更新: 2011年05月27日 23:27

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫

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