インタビュー

SIMON 『TWICE BORN』

 

破壊と創造の果てに凛々しく立ち上がる新しい世界——もう〈次世代スター〉の冠は脱ぎ捨てろ! 生まれ変わった男はいま、境界線を越えてフロントラインへ躍り出る!

 

守るべきものと壊すべきもの

初リリースとなったストリート・アルバム『STREET KNOWLEDGE』(2006年)で次世代に名乗りを上げて以来、USメインストリームのヒップホップに肩を並べるサウンドとフロウでシーンの真ん中へ躍り出たラッパーのSIMON。

「日本語をなるべく崩さず、普通にUSのヒップホップと並べて聴けるようなフロウのアプローチは、ラップ始めてから常にアップデートしてきたし、一貫してる自負はある」——メジャー/インディーを問わず次々にこなした客演の後に満を持して発表されたファースト・アルバム『SIMON SAYS』(2008年)でも、そうしたスタイルはフルに発揮されていた。

「『SIMON SAYS』はメジャーのフィーチャリングもガンガンやった後だったんで、結構イケイケな感じで、ひたすら〈俺だ!〉みたいな。いまとなっては幼稚だなと思う部分もあるけど、それもあの時の俺のヴァイブスでしか出せないスタイルだったから納得はしてます」。

同作リリース以降は、音楽を普通に楽しめなくなった時期もあったそうだが、一昨年の夏、2か月に及んだNY滞在が彼の気持ちを吹っ切らせた。昨年はUSでもビート・ジャックの相次いだロイド・バンクス“Beamer, Benz Or Bentley”をジャックした“Tequila, Gin Or Henny”(NYのヒップホップ・ステーション〈HOT97〉でもプレイされた)が大いに話題を呼んだことも、その背中を押す。同曲をタイトルにしたミックステープの発表を挿み、その夏からふたたび始まったアルバムの制作で、彼はいままで以上に自分自身と向き合ったという。

「『SIMON SAYS』では、俺が評価されるフロウの部分はバッチリ表現できたけど、やっぱりヒップホップを普通に聴いてる人じゃないとわかりづらい音楽になっていたし、予備知識がないと入り込みづらい感じを変えたかった。どんなテーマであっても、聴く人が共感できるやり方で届けないと届くものも届かないっていうのは、前作を出して思ったことでもあるので、〈生活していて見える景色〉を思いと共に吐き出すっていうのがアルバムの始まりでした」。

そんなSIMONをバックアップしたのが、お互い気心知って信頼を寄せるBACHLOGICとJIGG。2人をトータル・プロデューサーに迎えた新作のタイトル『TWICE BORN』には、〈破壊と創造〉という作品全体のテーマが込められている。

「守るべきものは意気込みとか意志の部分で表現していくけど、音楽的な部分ではガンガン壊させてもらいますよっていう。だから今回歌っぽいフロウもあったり、サビを歌っぽくやってみたりもしてる。ジャンルのクロスオーヴァーを狙って軽く手を出すのは簡単だけど、どの音楽にも、例えば4つ打ちは4つ打ちで超深い世界があるし。俺はいろんなものからいい要素を取り込んで、大好きなすごい黒いブラック・ミュージックに昇華することが最高に新しいと思うから、あくまでも自分のフォーマットがあったうえでの破壊と創造ですね」。

 

言葉とビートに潜む時代性

件のNY滞在について歌った“Be Me”を最初に完成させ、結果的に13曲が収録された『TWICE BORN』には、「ヒップホップのダンス・ミュージックとしての部分と、次に俺が挑戦するべきメッセージの部分がちゃんと入っている普遍的な楽曲」という2本の柱が据えられた。〈社会はとっくに期限切れの食えねぇケーキ/バブルの頃とか記憶にねぇし/一度ぶっ壊れた後の何もない/この地点が俺らの世代のBasic〉と歌うタイトル曲の一節然り、「メッセージ性によりフォーカスしたかった」という本作は、図らずも震災以降の時代の空気とも響き合う部分を覗かせている。

「3年の間ずっと待っててくれた人もいると思うんで、〈こうだったんだよ〉っていうのを“Be Me”で説明したうえで、新しいSIMONを聴いてほしかった。ファースト・シングルの“Zoo Rock”にしても新しいアプローチのフロア・チューンでありながら、時代性のある言葉を入れることによって、少しメッセージ的にも深みを出したり」。

「古い自分を壊して新たな自分を構築していく」というSIMONの視線はみずからの作品のみに留まらない。「日本のヒップホップもすげえ凝り固まってきちゃってる気がして」と話す彼の目は、このアルバムの先へと向かう。

「音楽業界全体がそうなのかもしれないですけど、どんどん意固地になって型にハマってってる気がするんですよ。俺はそれをぶっ壊せると思ってるから、新しいものを創造した時にまた新たな世界が生まれればいいなと思うし、これをどんどんブラッシュアップしていくって意味でやることは果てしなくありますね」。

秋には自身初となるワンマンのデイライヴも予定しているというSIMON。「常に新しいことをやってワクワクさせられる存在で、ライヴもカッコ良くて、おねえちゃんもはべらせて……っていうのが俺のなかで最高のラッパー像なんですよね」と笑う彼は、みずから変わり続けながらもシーンの変わらぬ核となるべく、ステップを踏んでいく。『TWICE BORN』もそこへと向かうステップのひとつなのだ。

 

▼SIMONの作品を紹介。

左から、2006年のストリート盤『STREET KNOWLEDGE』(MAMUSHI)、2008年作『SIMON SAYS』HERLEM)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年06月08日 17:59

更新: 2011年06月08日 19:04

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

インタヴュー・文/一ノ木裕之