AMY WINEHOUSE 『Back To Black』
不道徳なまでに正直な歌、残酷なほどに誠実な魂──エイミー・ワインハウスの身体には向こう見ずな聖女と毅然たるビッチが同居している。恋するために生まれてきた女と、歌うために生まれてきた才能のゆくえは?
昨日はあっちで飲んだくれ、今日はこっちで酔いどれて。ライヴ中にも赤ワイン、グビリ。飲むほど声が艶っぽくなる。酒場でダバダ。ライヴでドゥビドゥ。リハビリ施設はノーノーノー。今日も歌うの、鶯谷で。
あ、鶯谷は嘘でした。生まれは英国、ミドルセックス州。ジャズに育てられ、ソウルと恋に落ち、ヒップホップに態度を学んだ歌うたい。そりゃもう、欧米では大人気ですよ、エイミー・ワインハウス。時の人と言ってもいい。2003年のデビュー・アルバム『Frank』からして、UKを含む欧州で大ヒット。そして昨年11月にまずUKでリリースされたセカンド・アルバム『Back To Black』は、あっという間に100万枚超えして、何度となくチャート1位に。3月にはUSでもブレイクし、いまもっともライヴのチケットが入手しにくいアーティストになっている。その歌声の魅力はビリー・ホリデイやサラ・ヴォーンを引き合いに出すメディアがあるほどのもので、すでに貫録すら漂わせていながらも、まだ20代半ばというのだから驚くほかないのだが。驚くといえば、その破天荒なキャラね。素行不良のため16歳で演劇学校を退学になり、身体中には彫りも彫ったり10を超える奇抜なタトゥー。メディアだけでなく、他のアーティストやファンとまで喧嘩をし、わけてもアルコール依存を巡ってのトラブルは深刻な域に達している。5月には電撃結婚したかと思えば、インタヴュー中に旦那さんの名前をガラスの破片でカラダに刻みだした……ってな話も耳にしてたので、ワタクシ、正直ビビッておったのですが。NYでお会いできたワインハウスさん。体温低めで、気の利いたサーヴィス・トークなどもないものの、とりあえず彼女なりに本心を語ってくれました。ちなみに与えられたインタヴュー時間は、わずか10分! 7分を過ぎたあたりで、欠伸したり、腕をボリボリ掻き出したりはしてましたけどね、はい。
それほどビッグなレコードじゃない
——USでもこうして自分の音楽が受け入れられているのは、どんな気分ですか?
「う〜ん。考えてもみなかったわ。これはそれほどビッグなレコードじゃないし」
——いやいや、UK、USとブレイクして、いまは日本でも評判が高まってるんですよ!?
「へえ〜。ラヴリーね。それは嬉しいわ。驚きでもあるけど」
——あなたはとても自然に、自分らしく好きな音楽を表現しているように見えるんです。〈クールに見せよう〉〈セクシーに見せよう〉なんてことを頭で考えたりはしていない。その、思いのままにやってる感じが共感を得たんじゃないかと思うんですが。
「私はただのミュージシャンだし。何も意識してないわ。ただのミュージシャンだから」
——あなたの曲にはユーモアがあり、聴いてて楽しい気分になるものがあります。“Rehab”にしても、ああいう歌詞なのに、楽しくて、チャーミングで。音楽は人を楽しませるものだという思いがあるのですか?
「音楽は楽しいものだって思ってるわ。人を楽しくするものであるべきだし」
——もともと性格的にも、物事をシリアスに考えすぎずに、その状況を笑い飛ばしたいって思うようなタイプなんですかね?
「まさにその時には、そういうふうにはならないけど。後になったら笑い飛ばす……っていうところはあるわね。振り返ると、もっと冷静に見えたりするもんだし。自分がその状況の真っ只中にいるときはやっぱりシリアスに考えるけど、それを後で表現するときには多少ユーモアを交えたりするわ」
——子供の頃からそういうタイプ?
「うん。そうだと思う。そういうところは変わってないわね」
どこにも行かないから
この9月にようやく日本盤でもリリースされる『Back To Black』。プロデュースは6曲をマーク・ロンソンが、4曲をサラーム・レミが手掛けている。ヴィンテージ・ソウルやオールディーズの躍動感と生々しさを現代的なビート感とグルーヴで甦らせる音師ふたりと、その両方をあらかじめ感覚的に持っている歌うたい。コンビネーションは黄金だ。
——マーク・ロンソンやサラーム・レミとどのように知り合ったんですか?
「UKの関係者から推薦されたの。サラームの作る音楽にはずっと惚れ込んでたわ。マークのことも前から知ってて、いっしょにやりたいと思ってた。彼らの作る音楽は、他とは違うから。すぐに意気投合したわね」
——これからもふたりは欠かせない存在?
「そうね。彼らとなら何か新しいことができるかもしれないって思って、それで実際にそうなったわけだから。とても大切な存在よ」
——ところで、ヴォーカル・レコーディングは一発録りでやってるんですかね?
「最初から最後までワンテイクよ。ぱっとやったテイクがベストなことが多いから」
——ブースに入る前に気分を集中させて臨むわけですね?
「軽くウォームアップしてからブースに入る感じね。それで気分が乗らなかったらやめちゃうわ。だって時間の無駄じゃない? 乗らないときはダメだもん。でもまあ、仕事だからやるけど。仕事はしないと」
——30歳、40歳になっても、歌はうたっていきたいと思ってます?
「子供ができたら2〜3年は休むかもしれないけど。でも歌はやめないと思う。私はミュージシャンだし。どこにも行かないから」
「ただのミュージシャンだから」という言葉を何度か繰り返したのが印象的だった。みずからの本意とは別のところでイメージばかりが広がっていく。だが自分の本分は歌うことで、それ以外の「どこにも行かない」。エイミー・ワインハウスとはそういう女性だ。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年07月27日 17:16
更新: 2011年07月27日 17:18
ソース: bounce 290号 (2007年8月25日発行)
インタヴュー・文/内本順一