インタビュー

山下達郎 『Ray Of Hope』

 

 

 

昨年夏、新作『WooHoo』リリースのニュースが舞い込んだものの、制作上の都合による延期を発表。
その後、東日本大震災が発生。既に決まっていたタイトルを『Ray Of Hope』にかえ、
アレンジ、曲によっては詞の内容、収録曲まで変更したという本作がついに発売となる。
オフィシャル・サイトで発表された<制作ノート>には、「人生のアルバム」との言葉があった。
ごくわずかな時間であったが、新作の事を直接氏に伺う機会を得たのでここに紹介したい。 

 

「このアルバムは1年遅れて、『Ray Of Hope』になって本当に良かった。自分が原点に揺り戻された感じ。」

 

 

制作ノートの中で、「いよいよ来るものが来たというのが実感」、「大きな社会状況の変化」と、
今までは実に良い時代を生きたが、これからはそうは行かないといった事が象徴的に
書かれている。
氏が認識されている状況の変化というものを聞いた。

 

「歌は世につれる。という事。第2次大戦が無かったら
おそらくロックン・ロールは生まれていないとか、
モダン・ジャズなんかは違う形、違う運動になっていたかもしれない
という事ですよね。
日本もそうで、映画、音楽、文学などすべて、社会的な騒乱、自然災害など
大きな騒乱があったあとに文化には大きな変革が訪れる。
日本のロックとかフォークに関しても、70年代安保を抜きにしては
全く考えられないものなのでね。
ここで言う「来るべきものが来た」とか「これからは違う」というのは、あくまで僕個人の話です。
僕がやってきたようなスタイルっていうのは、この30数年、日本が基本的には平和でいたので
持続することができた。
しかし(震災を踏まえ)必ずこの先数年間で、音楽に限らず文化的に大きな変化が訪れ、
10代や20代から、発想の違う文化表現をする人が出てくる。
そうなると僕らは、例えば、ビートルズ以前の歌謡曲であるとか、
そういった見方をされる時代が来る。という事を言いたかった。
その状況下で自分の表現をどうするかって事を考えなきゃいけないんだけど、
僕もあと2年で還暦だからね(笑)。
でもそういう時代の音楽を必要としている僕のリスナーっていうのは必ず居るので、
そういった人たちが、文化的に取り残されるとか、孤立感を味わわないように、
自分の音楽のポテンシャルを下げないように努力しないとダメだという事ですね。」

 

リスナーが孤立感を味わないための、ポテンシャルを下げない努力とは?

 

「世の中でこういった大きな事が起きると、それが音楽の質を変えるから。
それは(我々の音楽が)否応無く過去の物として見なされていく必然である。
僕らはもうトレンドじゃないし、時代と連関していないし。
だけど、その中で何が残って何が残せないのか。っていうのを考えていかないと
ただの懐メロ・ミュージシャンにしかならない。
過去にヒットがあり、懐メロ化して行くというのがあるでしょう。
ディナー・ショーや酒を飲むクラブなんかで行われたりする音楽の中には、
全盛期のパッションはなくて「いやー、あの頃は良かったね」というようなショーがありますよね。
僕はそういうのは絶対やりたくないんです。
文化表現としての音楽、それをこれからどうするかっていうのを考えなきゃなっていう事。」

 

 

 

 

「僕が70~80年代でやっていた事は今から見れば懐メロですよ。
それを懐メロとしてのパッションでやるのか、今を生きている58歳の人間のパッションで
表現するのかということで全く違う。
60を目前にしてどういう事をやろうかというヴィジョンの中で、
3年前からライヴを再開してコンスタントに続けています。
そういった活動で僕にとって理想的な人は例えばヴァン・モリソンであったり、ニール・ヤングであったり。
僕のホントの意味での理想はディオン・ディムーチっていう、50年代ドゥー・ワップの大スターがいるんだけど、
この人は今、72歳だけどエネルギーが全く衰えてない。
今ドゥー・ワップのショーなんか観たらほとんどが懐メロ・ショー。
「あの頃は最高だった」なんていうね。でもわずか、何人かは居るんだよね。
今でも全く変わらぬパッションと声量でドゥー・ワップを歌える人が。
そのうちの一人がディオンなんだけど、そういう人に私はなりたい(笑)」

 

今なお音楽の魅力に満ち溢れたライヴ、また音楽としての強度を下げる事無く、
続々リリースされるタイアップ・シングルの力の根源を垣間見たような気がした。
しかし、それぞれオファー内容の異なる、映画、ドラマ、CMとのタイアップの元に制作された楽曲群が
ひとつのアルバム作品として見事まとめ上げるには、どういった工夫、秘密があったのだろうか。

 

「作家主義をやめました。『COZY』や『SONORITE』というのは作家主義に走りすぎて、
すごくバラバラになったと感じていて、こういうのもやりたい、ああいうのもやりたい、
シンガーとしてやれることをやっておきたいと。
それは老いに対する懸念もあってね。前2作の教訓は、自分に求められている事は何か? を考えて、
やっぱり始めた場所に戻って行こうと。だから自分のキャラに合わないことは今回やってないんですよ。
結果このアルバムのトータリティが保持できたかなと。当然の事って言えば当然なんだけど(笑)。
あえてそうしてます。他にも録音環境の事とかライヴの事とか多くの要因が作用しているんですけどね。」

 

当初発表された『WooHoo』と今回の『Ray Of Hope』の内容にはどういった違いがあるのだろうか?

 

もうちょっとアップ・テンポで、ジャングルビートの曲なんかもあったんだけど、
今の時代の空気にそぐわないと判断して、やめました。
詞をちょっと手直しした曲もあって、なるべくネガティヴな内容の歌はやめて、
全体的にポジティヴなものにしようという努力はしました。
最終的に『WooHoo』っていうタイトルもやめて、1年遅れたけど、『Ray Of Hope』にして本当に良かった。
自分が原点に揺り戻された感じですね。あの地震が与えた影響は本当に大きかった。
それ以前にも不況が続いていて、色々と考えてはいたんだけど、
今回の震災はそれとは全く違う問題ですからね。

 

 

 

 

昨今のライヴでの発言、シングルの詞の内容からも明らかに心境の変化が見受けられた。
しかし、あえて応援ソングではなく、また、チャリティー、義援といったニュアンスは含まずに、
音楽そのものにポジティヴな力を宿している。
齢六十を目前に日本の大衆音楽家として本物の唄と向き合う氏は、前人未到の地へと再び歩み始めている。

  

 

■NEW ALBUM 『Ray Of Hope』……8/10 on sale!

■SONG LIST…

01. 希望という名の光 (Prelude)

02. NEVER GROW OLD  ※2010年 三ツ矢サイダーオールゼロ CMソング    

03. 希望という名の光  ※映画 「てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~」 主題歌    

04. 街物語 (まちものがたり)(NEW REMIX) ※TBS系ドラマ 日曜劇場 「新参者」 主題歌    

05. プロポーズ      

06. 僕らの夏の夢 ※アニメーション映画 「サマーウォーズ」 主題歌    

07. 俺の空      

08. ずっと一緒さ ※サンクスデイズ・プラチナCMソング フジテレビ系ドラマ 「薔薇のない花屋」 主題歌    

09. HAPPY GATHERING DAY ※ ケンタッキー40周年記念テーマソング    

10. いのちの最後のひとしずく      

11. MY MORNING PRAYER ※日本テレビ系 「ZIP!」 テーマソング    

12. 愛してるって言えなくたって(NEW REMIX) ※TBS系ドラマ 日曜劇場 「冬のサクラ」 主題歌    

13. バラ色の人生~ラヴィアンローズ TBS系TV全国ネット 「ブロードキャスター」 テーマソング    

14. 希望という名の光 (Postlude)

 

■ボーナスディスク……「Joy1.5」 ※初回限定盤のみ収録

 ■SONG LIST…

01. 素敵な午後は【1985/02/24 @神奈川県民ホール】

02. THE THEME FROM BIG WAVE【1985/02/24 @神奈川県民ホール】

03. ONLY WITH YOU【1986/10/09 @郡山市民文化センター】

04. 二人の夏【1994/05/02 @中野サンプラザ】

05. こぬか雨【1994/05/02 @中野サンプラザ】

06. 砂の女【1994/05/02 @中野サンプラザ】

07. アトムの子【1992/03/15 @中野サンプラザ】

  

 

■PROFILE… 山下達郎(やました たつろう)

75年にシュガー・ベイブとしてデビュー。
76年、アルバム『CIRCUS TOWN』でソロ・デビュー。
84年以降、CMタイアップ楽曲の制作や、他アーティストへの楽曲提供など、幅広い活動を続けている。
そして今年の8月10日に6年ぶりのオリジナル・アルバム『Ray Of Hope』をリリース。

 

   
記事内容:TOWER 2011/8/5&20合併号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2011年08月05日 12:00

更新: 2011年08月05日 13:22

ソース: 2011/8/5&20合併号

TEXT:押塚岳大(商品本部)/村越辰哉(渋谷店)