PURO INSTINCT 『Headbangers In Ecstasy』
ミステリアスな雰囲気を持っていながらも、芯の強さを感じさせる女の子——そのヴィジュアルや音楽に触れた瞬間、そんなイメージが頭をよぎった。ピューロ・インスティンクトは、パイパー・キャプラン(24歳)と、スカイラー・キャプラン(16歳)からなる姉妹バンド。〈SXSW2010〉への出演をきっかけに注目を集め、今年8月には日本デビュー前にもかかわらず〈サマーソニック〉に出演。午前中の登場ながらも、小悪魔的な魅力で多くのオーディエンスを熱狂させた。そんな彼女たちのファースト・アルバム『Headbangers In Ecstasy』がついに日本盤でリリースされる。
「(いままでの道のりは)すっごくラッキーだったと思ってるの。まさかデビュー前に日本のフェスに出演して、多くのオーディエンスが観てくれるなんて想像もしてなかったから。最高の経験ができたと思っているわ」(パイパー:以下同)。
曲作りに関しては、「スカイラーは才能に溢れたギタリストだから、他のことで気を紛らわせてもらいたくない」と、パイパーがすべてを担当。80s調のキッチュなエレポップと何層にも重ねられたコーラス、そこにシューゲイザーを彷彿とさせるスカイラーの轟音ギターと、アンニュイな印象のパイパーの歌声が乗るという構成の楽曲が目立つ。ウォッシュト・アウトに代表されるチルウェイヴのカテゴリーで語られることも多いが、アルバムはタイトル通りに頭を揺さぶられるほどの陶酔感を味わうことのできる、他では体感できない不思議な作品に仕上がっているのだ。
「どれも自分のなかから生まれた音であることは確か。あと、私たちってブラック・サバスみたいに早いテンポの曲を演奏できないし、聴かないから、そういうものが作れないってことよ!」。
実は、ロック好きな両親の影響で、2歳の頃からLAの老舗クラブ〈Whisky A Go Go〉に入り浸っていたというパイパー。幼い頃から刻み込まれた感覚が、その音作りに影響を与えているのかもしれない。
「そうね、同世代の他の女の子に比べたらロックを知っていると思うな。でも、ロックの伝統的なフックやメロディーを追いかけるつもりなんてない。そこをベースにして自分たちらしいものを見つけ出したいと思っているの」。
また、ビーチ・ボーイズ風のコーラスに代表されるように、LAのカラッとした爽快な風が全体に流れているのも印象的だ。
「別にサーフ・カルチャーに心酔しているわけじゃないし、あの環境が特別なものだと思ったことはないな。ただ、海が近くにあること、ビーチ・ボーイズが生まれた環境にいられたことには感謝しているけど」。
そう言葉をはぐらかすパイパー。ヴィジュアルに関しても、〈禁断の愛〉を連想させる甘く危険なイメージで、創造力を膨らませるものだ。
「実はこの衣装って、本来着るべきものじゃなかったの。撮影前に飛行機で移動したんだけど、衣装がロスト・バゲージしちゃってね。それで急遽、知り合いのスタイリストに頼んで用意してもらったものなの。でも、そのハプニングによって、とってもキュートなヴィジュアルになったと思うわ。これって奇跡だわ!って感じたの(笑)」。
偶然目の前で巻き起こったハプニング、それを楽しむ姿勢が、彼女たちの個性を生み出しているのかもしれない。
「他だったら機能しないはずの機能が、機能しちゃってるバンドというのかな。すべてにおいて、ハプニングが私たちらしさを生み出しているような気がしてる。だから、これからバンドでどんなことをしたいのかなんて想像がつかないし、テーマなんてないの。それに先の決まった人生より、何が起こるかわからない人生のほうが、楽しそうじゃない?」。
彼女たちは無意識を巧みに使いこなし、今後もわれわれを翻弄するのだろう。
PROFILE/ピューロ・インスティンクト
パイパー・キャプラン(ヴォーカル)とスカイラー・キャプラン(ギター)から成るLAの姉妹デュオ。パイパーの高校卒業と同時にパール・ハーバー名義で活動を開始し、2009年にメキシカン・サマーからデビューEP『Something About The Chaparrals』をリリース。翌年にかけてアリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティの全米ツアーや〈SXSW〉への登場で脚光を浴び、EP『Puro Instinct』の発表を経てそのままユニット名を改称する。同年末には改名後初のシングル“Stilyagi”をリリース。今年に入ってからは〈サマソニ〉出演でも話題を集め、2月に発表したファースト・アルバム『Headbangers In Ecstasy』(Mexican Summer/KSR)の日本盤を10月5日にリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年10月07日 21:30
更新: 2011年10月11日 21:30
ソース: bounce 336号 (2011年9月25日発行)
インタヴュー・文/松永尚久