インタビュー

河村尚子

思い出の詰まった2曲を選びました



2009年3月に『夜想(ノットゥルノ)~ショパンの世界』でCDデビューを果たした河村尚子が、2年半をかけてじっくりと選曲した新譜『ショパン:ピアノ・ソナタ第3番、シューマン:フモレスケ、シューマン=リスト:献呈』をリリース。1枚目と同様、ベルリンのイエス・キリスト教会で録音(2011年5月)が行われた。

「選曲はかなり悩みました。最終的にシューマンとショパンの大作を組み、最後にアンコールのような形で《献呈》を入れることにしました。今年はリスト・イヤーですし。デビューCDとまったく同じプロデューサー、エンジニア、調律師のチームと組んだため、ディスカッションを繰り返しながら気持ちよく録音できました。この教会は周囲に緑が多く、心地よい残響。とても人間的な環境のなかでリラックスして演奏できます」

シューマンの《フモレスケ》はあまり演奏される機会に恵まれない作品。彼女は2002年にパリの古本屋で1.5ユーロの楽譜を見つけ、以後少しずつ弾くようになり、クライネフ先生のレッスンにも持っていった。

「先生もこの作品をあまりご存じなかったのですが、レッスンで弾いたときに『これはきみの曲だ! 』といってくれました。作品は一見とらえどころがなく難しいのですが、徐々に旋律の美しさ、変化に富んだ曲想、楽章ごとのコントラストなどを理解していくうちに、文字通りハマってしまいました。正反対の性格を投影させる音楽で、まさにシューマンの魅力が凝縮しています」

実は、2007年のクララ・ハスキル国際コンクールで優勝を飾ったとき、彼女が弾く《フモレスケ》に涙を流した審査員がいる。それほど彼女は弾き込んでいた。

「コンクールはいくつか受け、さまざまな試練を経験しました。でも、いつもこの経験が次につながるようにと前向きに考えてきました。クララ・ハスキル・コンクールでの《フモレスケ》は、そんな私の背中を押してくれました。ですから今回ぜひ録音したかったのです」

ショパンのピアノ・ソナタ第3番は、クライネフ先生との初めてのレッスンのときに持っていた作品。当時、18歳。それからずっと弾き続けてきた愛奏曲である。

「ショパンの晩年の作品はハーモニーを重視して書かれているため和音が複雑で、暗譜が難しいんです。先生からは当初各々の主題や性格の違い、左手の大切さ、ちょっとしたニュアンスを注意深く考えるようにいわれました。楽譜に大きな文字で注意事項をたくさん書いてくれた。1回1回が非常に意義深いレッスンでした」

彼女が敬愛してやまないウラディーミル・クライネフは先ごろ天に召されてしまった。だが、温かく弟子思いの先生の教えはずっと心のなかで生き続けるという。

「シューマンをもっと弾いていきたい。エッセンで教える仕事を始めてからバッハの大切さも感じています。今後は指揮者のように全体と細部のバランスを考えたい」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年10月13日 13:01

ソース: intoxicate vol.93 (2011年8月20日発行)

伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)