LONG REVIEW――羊毛とおはな 『月見草』
夕方から夜にかけ美しい純白の花を咲かせ、朝にはしぼんでしまう──そんな儚さの象徴ともいえる月見草をタイトルに冠した羊毛とおはなのニュー・アルバム。千葉はなの表情豊かなヴォーカルを生音のバンド・サウンドでナチュラルに彩るこれまでの方向性を踏襲しつつ、鈴木惣一朗をプロデューサーに迎えた本作では、〈一度きりの表現〉や〈自然さ〉といったテーマのもと、あえてワンテイクにこだわったレコーディングが試みられている。
バンド・メンバーと共にアレンジを入念に練り上げ、納得いくまで歌入れに時間を費やしたという前作『どっちにしようかな』とは真逆ともいえるアプローチ。ひっそりと咲く月見草を新鮮な状態のまま、さっと摘み取るような、そんな繊細かつ大胆な作業を経て作り上げられた今作には、適度な緊張感が漂いつつ、作り込まれていないからこその瑞々しさや、二度と再現することのできない刹那的な感覚が素のままに封じ込められている。
楚々とした佇まいの向こう側に見える、はっと息を呑むような生々しい歌ごころ。〈耳馴染みの良いアコースティック・デュオ〉といったところに留まらず、なぜ彼らの歌がこれほどまで多くの人に愛され続けているのか。〈ただまっすぐに、伝えたいコトバがあります〉というキャッチコピーが明示しているように、あるがままの音と言葉を飾り立てることなく表現したこのアルバムからは、羊毛とおはなというグループが持つ、ノーブルで揺るぎない歌への想いがこれまで以上に明確なかたちで伝わってくる。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年10月19日 18:01
更新: 2011年10月19日 18:01
ソース: bounce 337号 (2011年10月25日発行)
文/望月 哲