ADELE 『Live At The Royal Albert Hall』
品質とセールスの両面で2011年を代表する『21』を生み出し、世界をアデやかに染め上げた彼女。初のライヴ盤リリースを機にそんなアデル・イヤーを検証しよう
「ファースト・アルバムの『19』を書いた時は、何だかヘンだったの。おかしなことがあると、息ができなくなってしまったり。でもいまは(人間)関係でも、物事が予定通りにいかなくても事実を受け入れているし、それに私はまた恋することに関して前向きになっているし、いまでも大好きな元彼のことについても、違った痛みというか、希望を感じている。彼のことがポジティヴに向かう重大ポイントとして捉えられるようになったのよ。たとえ良くない状況でもネガティヴになるんじゃなくて、もっとポジティヴなものを見つけようとしている。過去を振り返るのはやめて、いまは〈次に何が起こるのか〉ということにワクワクしているの」。
セカンド・アルバム『21』が完成した後のインタヴューで、アデルはこう発言していた。結果的に2011年最大の爆発的な成功を記録することになった『21』。初作『19』同様に失恋をテーマに制作したアルバムでも、2歳成長した『21』は、同じように心の内面を歌に託しつつも、どこかパワフルで前向きな姿勢を感じさせる。それがよりリスナーに好感を持って迎えられたのだろう。彼女は曲作りについてもこのように明かしていた。
「『19』に対する感想や意見、批評は、〈曲も声と同じくらい良い〉というものが多かったのを知って、傷ついたの。だって私は歌う前に曲を書いていたから。だからこの『21』に向けて私は音楽を聴くことに1か月かけたし、アメリカではこれまで聴かなかったカントリー・ミュージックや物語を伝えるような音楽に影響を受けたわ。そこから曲を書くプロセスを学んでいったわけ」。
『21』の制作ために渡米したことで、初期のドリー・パートンやジョニー・キャッシュといったカントリー〜ブルースを聴き、ロカビリーではパンチのある歌い方が気に入ったというワンダ・ジャクソンなどを愛聴したという。他にも〈アメリカの魂〉とも呼ばれるブルーグラスのような音楽も自分のなかに吸収し、それが前作以上にアメリカ人にも愛される音楽要素となってアデルの楽曲に備わっていった。
「あの人たちの歌は声じゃなくて、曲の最初の5秒でそれが何なのか、わかってしまう。まるで私の頭のなかで歌詞が書かれたかのような、それが50年前の歌で私が生まれていない時のことでも、〈この曲は私のことを書いている〉って納得させられちゃったの。本当に素晴らしいわ」。
そしてリック・ルービン(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ジョニー・キャッシュなど)やポール・エプワース(ブロック・パーティ、プライマル・スクリーム、ラプチャーなど)といった敏腕プロデューサーを迎えて、『21』は完成されたのだ。
曲作りにも歌の表現力にも精魂込めた同作は、記録尽くめのアルバムとなった。ギネスブックに認定された3点のうち1つは、全英チャートで11週連続1位を記録し、マドンナの持っていた記録を塗り替えたうえ、通算18週のNo.1獲得でアラニス・モリセットとシャナイア・トゥエインの持っていた記録を大きく塗り替え、女性ソロ・アーティストとしては歴代最高記録を更新したこと。次に、2曲のシングルと2枚のアルバムが全英チャートのTOP5圏内に同時ランクインし、63年のビートルズ以来となる快挙を女性アーティストでは初めて達成したこと。加えて、アルバム『21』が全英チャート史上初めて年間で300万枚を売り上げた作品として認定されている。
一方、全米チャートでは史上最長の39週連続でTOP5入りを記録し、マイケル・ジャクソン『Bad』の38週を抜いて歴代1位に。ビルボードが発表した2011年の年間チャートでは、“Rolling In The Deep”がシングル総合チャート(Hot 100)で1位、アルバム総合チャート(The Billboard 200)でも『21』が見事1位に輝いた。いまや『21』はトータルで1,300万枚超のセールスを記録し、2011年に世界でもっとも売れたアルバムとなっている。
しかし大ブレイクの一方で、6月には喉頭炎のためにコンサート日程を変更。その後一時復帰したものの、10月にはドクターストップがかかり、2011年に予定されていた北米ツアーやライヴなどすべてのスケジュールをキャンセルすることになってしまった。それゆえ、どのコンサートも即完し、もっともチケットが取りにくいアーティストと言われていただけに、今回リリースされたCD+DVD作品『Live At The Royal Albert Hall』は、とても貴重な音源/映像となるだろう。
これは2011年9月22日に、英国でもっとも由緒のあるザ・ロイヤル・アルバート・ホールで行なわれたコンサートの模様を収録したもの。ステージには何の仕掛けもなく、衣装替えもダンスもなく、本人の饒舌なトークを交えつつ、16歳の時に書かれてデビューのきっかけとなった“Hometown Glory”のオープニングから、ひたすら17曲が歌われていく。すべてが彼女の独壇場で、〈こんなにおもしろい人なのか〉と驚かされるトークも多いが、シンプルな演奏が始まると情感をたっぷりと込めた表情豊かな歌声が流れていき、オリジナル曲にボブ・ディランやキュアー、ボニー・レイットのカヴァーなども交え、最後までまったく飽きることなく聴く(観る)ことができてしまうのだ。客席にいるのは老若男女の幅広いファン層で、誰もがいっしょに歌っている姿にも心打たれるし、アデルの心の歌が皆にとってかけがえのない歌として愛されていることを認識できるシーンも次々と登場する。
昨今はレディ・ガガやケイティ・ペリー、リアーナのようにPVなどの話題性から注目を集める人たちが流行の最先端を疾走しているが、一方で時代の空気を意識するより何十年先も愛される歌を歌おうと努めるアデルのようなシンガーもいる。第54回グラミー賞で、主要3部門を含む6部門でノミネートされたアデル。当分日本へ来るチャンスはなさそうなので、いまはこの『Live At The Royal Albert Hall』で、彼女の魅力を味わっていただきたいと思う。
▼アデルの作品を紹介。
左から、2011年作『21』(XL)、2009年作『19』、アコースティック・ライヴ音源を加えた2枚組のリパッケージ盤『19: Expanded Edition』(共にXL)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年12月14日 18:00
更新: 2011年12月14日 18:00
ソース: bounce 339号(2011年12月25日発行号)
文/伊藤なつみ