Shanti
photo by AGIRA Ltd. yatsushiro kazufumi
自分自身を陽の当たる場所へと導くようなサード・アルバム『LOTUS FLOWER』
「今回はオリジナルを出したい!って抑圧されていたものが爆発したってところがありますよね(笑)」と目の前で笑いながら話しているSHANTI。驚いたのは、その屈託のない笑みと、取材の場に来る直前まで聴いていたサード・フル・アルバム『LOTUS FLOWER』が放っている生き生きとした輝きがキレイにピタッと重なって見えたこと。1年前のセカンド・アルバム『Romance with Me』は〈ロマンティック〉をテーマに大人な感じを演出してみたと話していた彼女だが、今回はあえて役作りを行ったと思わしき箇所は見当たらない。「これはわりと素の私に近い。だから(ファースト・フル・アルバムの)『Born To Sing』に近いって印象を持つのかもしれない」と言うが、オリジナル曲の比率が高くなったことで結果的にそういう特徴が形作られていったのだろう。
「昨年の夏にリリースしたミニ・アルバム(『Sunny and Blue〜J-pop'n Jazz』)はカヴァー作品だったんですが、ミニなのに曲数が多くって(笑)。曲も書き溜めていたし、よりオリジナルを出したい気持ちが強まっていて。私、忙しくて曲が書けなくなると、ライターズブロックじゃないけどアンテナがうまく働かなくなるんですよね。これはソングライターとしていけない、ってすごく感じていたんです。それに去年は忙しくて体調を崩したりして、いろいろと考えることも多くて。それで、なるべく明るく日々を歩めるような、そんな気分を与えられるようなアルバムを作ろうと思ったんです」
ウズウズとしていた状態のなかで現状をじっくりと見つめ直し、自分自身を陽のあたる場所へと導くようにして作り上げた『LOTUS FLOWER』。あったかな日差しを浴びて彼女のポテンシャルもグングンと上がり、さまざまなチャレンジ精神を発揮させることになったようだ。もちろんアルバムを包む明るさは、やりたいことが実現できているという〈喜び〉からくるものでもある。
「楽曲を遊び心が溢れるものにしたいって気持ちが強かった。それにマーヴィン・ゲイのソウル・オールディーズなどレコードの時代の短い曲をイメージしていたところもあります。今回セルフ・プロデュースをしたんですが、自分がディレクター席にいて、サウンドのことを指示しつつヴォーカルもやるのは大変でした。3テイクぐらい録って、OKかどうか選ばなきゃいけないわけですよね。まるで、帽子を被って取って被って取って、みたいな忙しさがあって体力的には堪えますよ。でもすごく楽しかった。パーカッションに仙道さおりさんが参加してくれたんです。いままで私の周りは圧倒的に男性が多かったけど、曲によって女性特有のセンスを取り入れたいと思っていて。そしたら希望どおり、すごく繊細で楽しい演奏を聞かせてくれて」
ソウル・テイストの濃さは確かに本作の重要なポイントだ。カヴァーのラインナップもアメール・ラリューの《WEARY》やスティーヴィー・ワンダーの《OVERJOYED》など黒人ミュージシャンの楽曲ばかりである。彼女が心から大事にしているR&Bやソウル・ミュージックにしっかりとアプローチしてみたことで、サウンドのふり幅をグッと広げることにも繋がっているが、何よりバックを務めるミュージシャンの面々の活気をグッと引き出すことに成功したSHANTIのプロデュース能力を評価すべきだろう。
「SHANTIは、なんでそんなに好きなことばかりできるの? って訊かれたんですよ。それはいつも自分が負けたくないってところを守り抜いているから。現実には実際にやってみないとわからないことばかりで、やってみさせてよ! ってところまで持っていかないと相手に伝わらないんですよね。今回のレコーディングでは私、相当踏ん張ってやったので、いままで以上に自分らしさが出せている気がして。ピアノやギターの弾き語りにすれば、もっとシンガー・ソングライターらしさが打ち出せるのかもしれない。でも1曲1曲において、いろいろ遊んでみたくて、もっとわがままに表現してみたかった。それが自由っていうか、そもそも遊びがないと音楽はどんどん窮屈になっていく気がするんですよね」
自分が遊びきってみせたという確かな自信が得られているのだから、そりゃ強いものが生まれるに決まっている。それに、楽曲に相応しいサウンドを求めて頑固にわがままを押し通したのだから、アルバムがカラフルにならないはずがなく、盟友・小沼ようすけのしゃれっ気のあるギターをバックにしたスウィング・チューン《SUNSHINE》やポップなメロディが光るアップ・ナンバー《GALAXY》など、色鮮やかな星座が形作られている。その星座のなかでも明るい輝きを放っているのが、しなやかなブラジリアン・リズムがスマイリーに弾む《LOTUS FLOWER》。チャーミングでソウルフルなSHANTIの歌声は、いままででいちばん温かく感じられる。
「ジャズ、ジャジー・ポップといったジャンルやカテゴリーと関係なく、いちミュージシャンとしてここが私の立ち位置です、って言えるアルバムになっていると思う」と彼女が語るこの自信作は、これまででもっとも多くの笑顔で迎えられるに間違いない。