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ロン・カーターを動かしたmegの「明るいジャズ」
2006年以降リーダー作をリリースするジャズ・シンガーのmegの4作目となる新作は『リトル・ワルツ』という。なんとそれは、ロン・カーターのプロデュース盤となる。
「ジャズ・レジェンドであるロンさんとやりたいという、夢のような願望がまずありました。そしたら、思いがけなく、やっていただけるということになったんです」
昨年にはビル・フリゼールらボーダーレス派と来日して威厳あるジャズ・マン像をすくっと仁王立ちさせてみたり、渾身のビッグ・バンド・ジャズ作を出してみたり。70歳半ばになろうとする今、ロン・カーターは矍鑠、冴えているのは間違いない。
「昨年6月にロンさんが来日したときに、いろいろと詰めました。歌いたい曲のリストを渡していたんですが、その際に録音する11曲を選びました。そして、ロンさんはリストの最後に「リトル・ワルツ」と書き込んだんです。え、これは? と思ったら、ロンさんのオリジナルで、私に歌わせたい、と。とても、光栄なことですよね」
その《リトル・ワルツ》は、カーターの69年アトランティック盤が初出の繊細な美曲で、V.S.O.P.で再演するとともに、89年の自己作『デュエッツ』(Emarcy)ではヘレン・メリルに歌わせている。それ以外は、《ワルツ・フォー・デビイ》ほかジャズ有名曲を選曲。そして、実際の録音は本人ほか、マルグリュー・ミラー(P)、ラッセル・マローン(g)、ロン・ブレイク(as)、カール・アレン(ds)ら、錚々たる奏者が参加している。
「ロンさんが集めてくれました。アレンジはロンさんから、演奏したものと譜面が事前に届けられていたので、それをもとに私も曲のニュアンスを膨らませました」
録音は10月に、ニューヨークのアヴァター・スタジオにて。2日間のリハーサルを経て、2日間でレコーディングされた。どの曲も、真正直な一発録りだという。
「緊張感溢れるなかの録音。なはずなんですが、不思議と歌う事に集中できました。『僕たちが合わせるから、歌いたいように歌いなさい』と言われているように感じたレコーディングでしたね」
万人の耳に届く、明るいジャズを歌いたい。そう思って前向きに活動してきたが、もう一つ上のステージに進み、大きく踏み出せたという所感を、彼女は今えている。