インタビュー

ネマニャ・ラドゥロヴィチ

現代の空気がだたよう躍動感あふれる「四季」が登場!

セルビア出身のヴァイオリニスト、ネマニャ・ラドゥロヴィチは長髪をなびかせ、スリムな体躯を反らしながら劇的な演奏を行う。これまでタルティーニの《悪魔のトリル》、イザイやバッハの無伴奏作品、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲第1番&第2番、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ《春》などを録音し、個性的な演奏が話題となってきた。そしていよいよヴィヴァルディの《四季》に挑戦。セルビアとフランスの音楽仲間15人によるアンサンブル、ドゥーブル・サンスとの共演で、弾き振りを行っている。

「自分のアンサンブルをもつのが夢だった。セルビア時代の幼ななじみや友人、フランスの音楽仲間を集めて3年前に結成しました。全員がふだんはソロやオーケストラで活動。みんなアンサンブルで演奏するのを心待ちにしている。《四季》は僕にとって初めてのスタジオ録音。全員で意見を出し合い、推進力のある演奏をしたいということで一致。僕は中央に立ち、音楽が自然に導いてくれるままに弾き振りをしています」

彼らの演奏は躍動感にあふれ、疾走するようなパワーに満ち、視覚的である。

「現代の空気感がただよう《四季》にしたかった。ニュアンス豊かで聴き手がさまざまな季節のイメージを描くような。僕はどんな曲でも自由で開放的な演奏が目標。歌心溢れる響きを奏でたい」

聴きどころは《春》の陽が昇り、沈むところの強弱の表現。《夏》はキャラクターが明確ゆえヒューマンな演奏を心がけたという。《秋》は幸せな印象。ピチカートの部分は彼らのアイディアで栗の実が落ちてくるイメージとか。《冬》はセルビアの極寒の冬を思い出して演奏したそうだ。

「僕はビジュアルが浮かぶ作品が好き。自分のなかで咀嚼し、聴き手が鮮やかなイメージをもって聴いてくれるように仕上げていくんです」

カップリングはセルビア人作曲家セドラルが日本の震災への追悼として書いた《日本の春・2011》。おだやかさと恐怖をリアルに表現している。メンデルスゾーンもこよなく愛す。コンチェルトの録音では、珍しい第1番を収録。

「メンデルスゾーンの音楽に宿る楽天性に惹かれます。ほとんど演奏されない第1番は少年時代の作だけど、既に天才性が見られロマンチック」。

彼は「ヴァイオリンを通して音楽を翻訳している」と語る。作曲家の代弁者だと。優しい笑顔とはげしい演奏、その対比が非常に魅力的だ。

『東京オペラシティシリーズ 第70回』

11/10(土)14:00開演 会場:東京オペラシティコンサートホール

『第75回新潟定期演奏会』

11/11(日)17:00開演 会場:新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあ



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年03月08日 11:59

ソース: intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)

取材・文 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)