インタビュー

村治佳織

演劇の殿堂・シアターコクーンで、
注目の岩松了作品に〈ギターの女〉として出演

このところ年一枚のペースで秋にアルバムをリリース。最新作でもマーラーの《アダージェット》やチャイコフスキーの《くるみ割り人形》らクラシックから、ビートルズやビージーズのナンバー、そしてアルバム・タイトルでもある書き下ろし新曲《プレリュード》を含む坂本龍一作品など幅広いジャンルの名曲を、超絶テクニックと豊かな音楽性で見事に紡ぎ出してみせた村治佳織。昨年11月、右手に橈骨(とうこつ)神経麻痺を患いファンを心配させたが、幸い大事には至らず、今年の2月からはコンサート活動も再開できそうだとのこと。そんな彼女が5月に約1カ月間、渋谷のシアターコクーンでの演劇に出演するというニュースが飛び込んできた。

人気劇作家・岩松了が手がけた新感覚の任侠心理劇『シダの群れ』。2010年に初演された本作は、岩松作品お得意の濃密な会話劇に銃撃戦などの派手なエンタメ性を加味し、それまで演劇をあまり観たことのなかった男性の観客層にも大いにアピールしたヒット作として、高く評価されたという。

「大衆演劇好きの知人に、東十条の篠原演芸場に連れて行っていただいた時、ちょうど同じように誘われて観に来ていた岩松さんと初めてお会いしたら、私のことをよくご存じだっておっしゃって。なんでも1994年に初演された舞台『恋する妊婦』ではロドリーゴの音楽を使ったと聞いて、お互いにいっぺんに打ち解けました(笑)。岩松さんは昔よく原稿をクラシック喫茶で書かれていたそうで、いいなと思った音楽をチェックされていたとか」

新作『シダの群れ 純情巡礼編』では、前作に引き続いて〈志波崎組〉の水野役に風間杜夫を起用。水野を慕う坂本の役に岩松作品初参加となる堤真一が決まり話題を集めている。そして村治佳織の役は〈ギターの女〉。坂本の亡き父親がかつて訪れたというスペインの香り漂うギター曲を、舞台で生演奏するという。

「まだ、どういう役でどれ程の出番になるかのかもわかりません。これから決めるっておっしゃっていました。あくまでも演奏で表現して、セリフなどはないはずです…たぶん(笑)。どんな曲を演奏するかも未定。公演はほぼ毎日あるので、その日によって演奏や曲を変えたりするのも面白いかもしれません。共演者の反応も楽しみ」

スペインの巨匠ロドリーゴが存命だった頃、彼の作品を目の前で演奏する機会に恵まれるなど、ギタリストとしてめざましい成果をあげ、近年は活動拠点を日本に置きながらも、一年の数か月をマドリッドで暮らしていた彼女なら確かに、演奏だけで舞台にスペインの風を呼び込むことも可能だろう。

「岩松さんもスペインには行かれたそうですが、まだ闘牛はご覧になっていないと聞きました。東京では映像による特別な鑑賞会があるそうなので、今度ぜひお誘いしたいです。あの生と死のドラマって、絶対、任侠の世界にも通じるものがあると思うんですね。何かインスピレーションを感じていただけたらいいなと思います」

シアターコクーンを含むBunkamuraは半年間の施設改修工事を終えて、昨年末に再オープンしたばかり。7月には同じ東急グループの大規模複合施設〈渋谷ヒカリエ〉の中に、巨大なミュージカル劇場〈東急シアターオーブ〉も誕生することもあって、渋谷は今後ますます〈舞台の街〉として注目を集めることは間違いない。

「稽古が始まるのが楽しみです。役者の皆さんのアンサンブルの中に入っていけるように、できるだけ見学に通いたい。クラシックのリハーサルとは違う体験ができそうでワクワクします。主役の堤さんと先日お会いしたら、ギターに興味がおありと仰っていました(笑)。とにかく身体に気をつけて1カ月間頑張り通したいです!」

なお、4月からはNHKの語学番組『テレビでフランス語』のレギュラーも決定。今年の彼女は忙しそうだ

『シダの群れ 純情巡礼編』
5/4(金・祝)~5/27(日)
作・演出:岩松了
ギター演奏:村治佳織
出演:堤真一/松雪泰子/小池徹平/荒川良々/倉科カナ/市川実和子/石住昭彦/吉見一豊/清水優/太賀/鈴木伸之/深水元基/浅野彰一/風間杜夫
会場:Bunkamuraシアターコクーン
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/


カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年03月14日 11:48

ソース: intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)

取材・文:東端哲也