インタビュー

安藤裕子 『勘違い』

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前作『JAPANESE POP』から1年半。安藤裕子が通算6枚目のオリジナルアルバム『勘違い』を完成させた。
そこには、制作中に起こった公私に渡るさまざまな出来事に翻弄されながらも、
最終的にそのポップアビリティーに輝きとタフさを漲らせた彼女の姿がたくましく映し出されている。
まさに新章突入を告げるに相応しく……。

「続けていくためにはこのぐらいのスタンスでいなければいけないなって」

はじまりは一昨年の夏。5枚目のアルバム『JAPANESE POP』を作り終えたあと、

翌年3月にリリースされた『大人のまじめなカバーシリーズ』のレコーディングも

ひと段落ついた頃だ。


「(次のアルバムは)『JAPANESE POP』のようにはできないなと。

それまでの作り方っていうのは冷静沈着というか、わりと整頓して作っていて、

バランスもすごく考えてたし、俯瞰していつも作品作りをやってきたんですね。

でも、『JAPANESE POP』を作り終えたあとに、なんかもう〈保てないな〉って感じたんですよね。

これは涼しい顔してられない、たぶん安定した状態ではいられないだろうなと。

あんまり考えられなくなっちゃったというか、〈曲を作る〉っていう点では相変わらず出てくるんですけど……

たとえば、この曲はこういうふうになってこう聴かれたらいいだろうなっていう予測を越えてしまうというか、

以前だったら〈やめとこうかな〉っていうような判断みたいなものがなかったというか、ただ作ったりすることが

そのときの自分にやれること、人格的にいつもどおりの自分ではなかったところでやってたかな」


 

最初に出てきた曲は“エルロイ”と“アフリカの夜”。

前者はシングル“輝かしき日々”のカップリングに収録されていたもので

(そちらは、砂原良徳によってエレクトリカルにリミックスされたもの)、変則的なビートを刻むドラムと扇情的なベース、

スリリングに畳みかけるギターとピアノ、そこに攻撃的な歌詞が跨ってロデオを繰り広げているような楽曲。

後者は、過去作で言うところの“アネモネ”、“さみしがり屋の言葉達”といった宮川弾作品に近いムードを持った

メロディアスなナンバーだ。


「自分のなかで〈変化だな?〉って思ったのは実は“アフリカの夜”で。

いままでだったらメロディーを弾クンが書いてもっさん(山本隆二)がアレンジをやったであろうっていう曲が

この曲だと思うんですけど、それを自分が好んで作るようになってる。

それに乗ってくる言葉、ちょっとニューミュージックみたいな感じで乗ってくる言葉も

自分は欲して楽しんでるのかなって」

 

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震災や彼女自身の大きなイヴェント──出産などもあり、音楽家として〈安定した状態ではいられない〉なかでも、

新しい曲は着々と組み上げられていった。そして完成したアルバムのタイトルは『勘違い』。

奥深い音像のなかで気持ち良く声を泳がせながら妖艶な〈響き〉をもてなすタイトル曲をはじめ、

『JAPANESE POP』収録の“New World”“Dreams in the dark”に続いてベニー・シングスが

サウンド・プロデュースを手掛けた“すずむし”(デビュー前に作られていた曲だそうだ)と“それから”、

シンプルで穏やかなアレンジが憂いのなかから優しさを滲ませるスロウ・ナンバー“永すぎた日向で”、

気高くもありながら人懐っこさを湛えたバラード“飛翔”など、出来上がってみれば、彼女の〈不安定な気持ち〉は

むしろ〈自由〉へと好転した印象で、そのポップネスもより際立った作品となった。

印象としてはカラッとしてますよね。アクの強い曲に関しても、どっちかっていうとあっけらかんとしてるし。

アルバム・タイトルも最初は〈永すぎた日向で〉って思ったんですけど、それを表に出しちゃうのは

ちょっと怖いかなって思って。

この作品を最後に歌をやめるんだったらそれでいいんだろうけど、音楽を続けるんだったらそのタイトルは重い。

“勘違い”はアルバムで一番好きな曲だし、こういうちょっと気ままなタイトルのほうがいい。

〈おまえ勘違いしてんだよ〉って自分で言える感じというか、続けていくためにはこのぐらいのスタンスで

いなければいけないなって」


アルバムのラストは出産後に作られた、いわば一番新しい安藤裕子を映した2曲──慈愛に満ちた“お誕生日の夜に”と

前向きな心象をその言葉から窺わせる“鬼”で締めくくられ、〈続けていく〉という音楽家としての意志がここからも

感じ取ることができる。


「『JAPANESE POP』に向けての数年間っていうのは、どこか終わりを探していた、

完結させたがってた自分がいたと思うんですね、たぶん。で、『JAPANESE POP』では

作って来た音楽が一個成熟したもの、こういうふうに身になりましたよっていう、

終わらせようと思えば終わらされるような形になったんですけど、そこで終わらずに続けるのであれば、

何か考えをクリアにしなきゃいけないところもあったし……うん、何がこれからできるかわからないですけどね」

 



 

■New Album……『勘違い』 3/28 on sale!

■SONG LIST……

01.勘違い

02.エルロイ

03.輝かしき日々(NHKドラマ「カレ、夫、男友達」主題歌)

04.すずむし

05.それから

06.アフリカの夜

07.永すぎた日向で

08.地平線まで(Album Ver) (東武鉄道「スペーシア」キャンペーンソング)

09.飛翔(フジテレビスペシャルドラマ「魔術はささやく」エンディングテーマ)

10.お誕生日の夜に

11.鬼


 


■LIVE……安藤裕子 LIVE TOUR 2012『勘違い』

4/30(月・祝)東京都 東京国際フォーラム ホールA

5/5(土)大阪 オリックス劇場

※詳しくはHPにて。

 

■PROFILE……安藤裕子(アンドウ ユウコ)

03年7月にミニアルバム『サリー』でメジャーデビュー。

独特の言葉で紡がれる歌詞世界と、清涼感溢れる歌声、ファンタジックな楽曲が

世代や性別を超えて支持されている。

3/28に待望の6thアルバム『勘違い』をリリース。



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記事内容:TOWER 2012/3/20号より掲載



カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2012年03月20日 12:00

ソース: 2012/3/20

TEXT:久保田泰平