インタビュー

The Duo (鬼怒無月+鈴木大介)

ギター少年的な表現ができたのは素直になったからかなと思う

ジャズとクラシックのギターの名手ふたり、鬼怒無月と鈴木大介のユニット、The DUOの新作『Agua De Beber~おいしい水』。アントニオ・カルロス・ジョビン作の表題曲をはじめ、《雨に濡れても》や《ヒア・カムズ・ザ・サン》など、〈自然〉をイメージさせる曲が多いことに気付く。

「言われて初めて気付いた。テーマらしいものはこれまででいちばんなかったはずなんです。今回はひたすら良い曲を弾いたって感じで」(鬼怒)

「そういえば、《黄昏のビギン》も雨が降ってるなぁ。これまででもっとも戦略的なものがない(笑)。レコーディングは去年の夏。ちょうど震災のあとだったんですよね…。あの頃僕のなかでまだ震災が終わっておらず、もっとエマージェンシーな状態でした。自然を感じるって言ってもらえるのは、そのとき心理的に求めていたものだったんでしょうね。ギターと自分の存在が、海や山や街と密接にあるってことをきちんと表現しなきゃって、自然とそういう気持ちになって」(鈴木)

本作は彼らの作品のなかでもっともオーガニックな1枚であり、The DUOにとってやはり〈季節感〉は極めて重要なモチーフなんだと気付かせてくれるアルバムである。柔らかな風や光を受けてキラキラした音色から、ふわッとノスタルジックな感覚が立ち上るところも実に魅力的だ。

「これね、自分たちがキッズだった頃に聴いてた曲ばっかりなんです。だから自然と昭和な感じというかレトロ感が出たんじゃないかなあ。ふたりはここで同じイメージを元に弾いているというか。だから自分達の思い出を辿っていくようなレコーディングだったんじゃないかと(笑)」(鈴木)

「曲を用いて自分たちを大きく見せようとしたりせず、その曲を素敵だと思いながら演奏したってことなんだと思うんですよ。別にノスタルジックにしようと思ったわけじゃないし…」(鬼怒)

「なっちゃったんだよね。《テイク・ファイヴ》は中学生の何にもわかんない頃に聴いていた曲で、弾いているとあの頃に戻されるというか」(鈴木)

ふたりは演奏の説明のなかで、「肩の力が抜けて」という言葉を頻繁に用いていた。確かに、ニュートラルな状態で演奏に臨んでいることが良く分かるテイク揃いで、極上の音色の柔らかさはそこから来ていることは間違いない。ところで、年齢を重ねるにつれて演奏が上手くなるという考えに対してそれぞれのご意見を聞きたい。

「耳が良くなるということなんでしょうね。歳をとると、力が抜けて自由度を増していくんだろうな。ジャズの人はどんどんうまくなるっていうけど、ぜひその秘密を解き明かしたい」(鈴木)
「若い頃は、スタンダードなんてちゃんちゃら可笑しいぜ、みたいな感じで、やるなら俺なりのやり方じゃないと、みたいな力みはつねにあった。最近は、自分がやっているすべての音楽を同じスタンスでできるようになりましたね。肉体的だけじゃなく精神的な力みは取れたと思う」(鬼怒)
「物事に対するリスペクトの気持ちなどを含め、これから先、もっと無垢になっていくと思う。スタンダードをやるときなんか、誰が弾いているのかわかんないけどいいな、って言ってもらえる演奏ができるようになれば。そのなかにブレない個性みたいなものを見つけられたらいい」(鈴木)

そういう発見の場、自身の考えを深めていく場としてThe DUOはあるのだとふたりは話す。

「出自ということではまったく違うわけでしょ? ここまで違わなくても…ってぐらい」(鬼怒)
「ハハハ、ライヴを始めた頃、お客さんはどこに来ているのかわかんなくなっていたりするんです。どっちかのフィールドに入るんじゃなく、元からいないフィールドにふたりが足を踏み入れているわけだから、お客さんは2年ぐらい目がテン状態が続きましたよ(笑)。ただ続けられたのは、自分たちが楽しかったから。そうして周りも次第にThe DUOの楽しさを見つけていって」(鈴木)
「昔は、客層見て、今日は俺がアウェーだな…って感じることが多々あったもん(笑)。そういう意味で、周りがまず認知してくれたことで、僕らもThe DUOを認知できたような気がします。これでいいじゃん、っていうような、ね」(鬼怒)
「つまり年齢的にふたりが良い時にやり始めたってことなんでしょうね(笑)」(鈴木)
「大ちゃんのクラシカル・ファンク・カッティングが炸裂する《カンタループ・アイランド》とか、精神としてはジャズ。純粋にギターを聴かせたい!っていうギター少年的な表現ができたのは素直になったからかなと思う」(鬼怒)

優れたギター・プレイヤーが素直な気持ちを交感しあいながら奏でた音の気持ち良さは、言うまでもなく最高だ。これはThe DUOの新たなスタンダードと呼ぶべき傑作。過去3作から名演をチョイスした同時発売の『Cafe St  andard』と聴き比べてみれば、おもしろい発見ができると思う。

LIVE INFORMATION
『CD発売記念LIVE 』

9/4(火) 会場: 東京・代官山 晴れたら空に豆まいて
http://mameromantic.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年08月28日 12:43

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

取材・文 桑原シロー