インタビュー

ジェシー・ハリス

ダヂ、マリア・ガドゥらも参加したブラジル録音の新作

ジェシー・ハリスはこれまでも随所にブラジル音楽への愛情を覗かせていたが、新作『サブ・ローサ』はリオで録音された。「11年1月にリオで1か月暮らした。(マリーザ・モンチとの仕事で有名な)ダヂと知り合って、マリア・ガドゥ、マイコン・アナニアス、ヴィニシウス・カントゥアリアらとも仲良くなった」という交流は、モンチやガドゥの新作への参加にもつながっている。「そして11月にリオのクラブに出演しないかと招かれ、ダヂやマイコンとグループを組んだ。そのときにアルバムを録音しようと考えたんだ。ダヂの息子ダニエル・カルヴァーリョは素晴らしいエンジニアで、彼の手がけたカエターノ・ヴェローゾのレコードのサウンドが大好きだ。素晴らしいスタジオとエンジニアに、ダヂとマイコンがいて、すべてが理にかなっていた。クラブ出演の翌日にスタジオ入りした。突然のことだったんだ」。

ただし、リオ録音といっても、ブラジル音楽のアルバムではない。「書いたときはサンバぽかった」という《ロッキング・チェアー》にしても、ファンクなビートを加えて「サンバ・ロックみたい」になったし、エキゾティックな《アイ・ウォント・ウェイト》にいたっては「エジプトのウム・クルスームのレコードのようなストリングスがほしいってマイコンに頼んだ」というのだから。

「ブラジル音楽を模倣するアルバムを作りたくなかった。自分がブラジル人のふりはしたくない。意外性がないし、愚かしい。時間の無駄だ。それよりも僕の音楽にブラジル音楽からの影響を用いる方がずっといい。ブラジルのレコードはストリングスの編曲が素晴らしい。それにミュージシャンたちのハーモニーの感覚が洗練されている。そんな彼らに僕の音楽を演奏してほしかったんだ」

歌の内容は「恋愛関係とその終りについてになったね。とても私的なレコードだ。内省的で、過ぎた日々を振り返っている」と語る一方で「希望と明るさもあるし、音楽はメランコリックじゃない。悲しいスロウな曲のアルバムじゃないんだ。活気がある」とも。その対比はブラジル音楽から学んだことでもある。「すごく楽しいサウンドなのに、とても悲しい歌詞の曲がたくさんある。ガル・コスタの歌うジョルジ・ベンの《ケ・ペナ》は「彼はもう私を好きじゃない」といった歌詞なのに、曲は楽しくて踊れる曲だ。このレコードにもそういったところがあるよ。楽しくさせられるサウンドなのに、悲しい歌詞だったりするのさ」。

写真:コーダマサヒロ

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年09月23日 19:41

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

取材・文 五十嵐正