インタビュー

ハンスイェルク・シェレンベルガー


「天上の天才」晩年の傑作の山に聴衆とともに登る


シェレンベルガー


©K.Miura

ベルリン・フィルハーモニーの首席オーボエ奏者から指揮者に転向して11年。ハンスイェルク・シェレンベルガーが今年11月に東京・すみだトリフォニーホールで、カメラータ・ザルツブルク(以下CS)、小菅優(ピアノ)とともに4回の「モーツァルト後期ピアノ協奏曲&交響曲全曲」演奏会に臨む。

「CSをかつて率いたハンガリーの大音楽家シャンドール・ヴェーグは私のアイドルだった。オーボエ奏者として何度も共演、モーツァルトの解釈で大切なのはピリオド(作曲当時の)楽器か否かではなく、可能な限り誠実に再現する姿勢なのだと学んだ。演奏様式は時代とともに変わる。馬車と新幹線の時代とで、生活が同じスピード感とも思えない。私も1960年代以降のピリオド奏法研究の成果を踏まえ、レオポルド・モーツァルトやC・P・E・バッハの著作も読み、後期ロマン派のヴィブラートをたっぷりかけた響きを脱し、より適切なフレージングを究めてきた。一方で現代のホールの規模、室内オーケストラの編成を頭に入れ、今日適切と思われる奏法、語法で最善を尽くすつもりだ」

「4公演全体を一つの高峰と考え、日本の聴衆の皆さんとともに富士山を自らの脚で登るような思いで天上の天才、モーツァルトの傑作群に挑みたい。ちなみにハイドンは地上の天才である。初日は『ジュピター』を軸に調性の相性がいい長調の協奏曲を組み合わせた。2日目はプラハの街をテーマに、ここで初演された『ドン・ジョヴァンニ』の序曲で始める。3日目は変ホ長調、ハ短調という協奏曲の組み合わせから曲目を組んだ。最終日は私が最高傑作と考えるト短調の交響曲を到達点としながらも、モーツァルトの創作歴で重要な意味を持つ『偽の女庭師』の序曲を敢えて挿入した。ピアノの小菅さんは今、私と同じミュンヘン在住なので頻繁に打ち合わせ、レコーディングも済ませた上で日本に向かう。来日直前にはザルツブルクで、10日間のリハーサルを重ね万全を期す」

「指揮の勉強は17歳で始め、デットモルトとミュンヘンの音大でも学んだが中断。1995年にパドヴァ室内管弦楽団を振り、再開した。妻と4人の子どもとの生活も大事にしたいと思い、ベルリン・フィルを退いたのは2001年。今も音楽の基本アイデアはオーボエを吹きながら練るし、室内楽奏者としては現役だ。ケルン放送交響楽団で私の後任の首席だった宮本文昭さんが指揮に転じ、オーボエを完全に辞めたと知って驚いた。私には絶対、できない」




『Meet The Mozart!』
シェレンベルガー&カメラータ・ザルツブルク with 小菅優


モーツァルト《後期ピアノ協奏曲&交響曲全集》全4回
会場:すみだトリフォニーホール
11/2(金)19:00開演
11/3(土・祝)15:00開演
11/10(土)15:00開演
11/11(日)15:00開演
http://www.triphony.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年10月05日 14:58

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

取材・文 池田卓夫(ジャーナリスト)