インタビュー

渡辺香津美

ルネッサンスは終わらない

日本ギター界の大御所、渡辺香津美が9月、10月とつづけてニュー・アルバムをリリースする。日本で最も多忙なギタリストの一人である彼の活動範囲はエレクトリック、アコースティック、完全ソロ、バンド形態と幅広く、その創作エネルギーはとどまることを知らない。まずは、アコースティック・ギターによるソロ最新作『ギター・ルネッサンスⅤ[翔]』。いまや彼のライフワークとなったこのプロジェクトも通算5作目となる。

「ギター一本で曲の全てを完結させるという行為は、アコースティック・ギターの醍醐味であり、ギタリストとしての一つの目標でもあります。アコースティックには90年代半ばから本腰を入れ始め、03年にシリーズ第一弾となる『ギター・ルネッサンス』を発表して現在に至るわけです。とてもやり甲斐がありますが、孤独な作業。いかに集中力を高めるかが勝負ですね」

さらに今作には東日本大震災、加藤和彦氏の死去など悲しい出来事が大きな影響を及ぼしている。また、清水靖晃との久々の共演では年月を越えた二人の感性の共振が見事。

「自分にとって音楽とは何であるか、これを見つめ直す機会になりました。聴く人がいてこそ弾くことができる、そんなことに改めて気付いたり…。選曲も自分がこれまで出会った人との繋がりを曲として残したい、というパーソナルな色彩が強いです。清水君との共演は釜石市にある “復興の鐘” の音色に触発されて作った曲です」

そしてもう一枚は、昨年リリースされたヒット作『トリコ・ロール』のトリオによる熱狂のNYライヴ盤『ライヴ・アット・イリジウム』。

「実は去年のスタジオ盤と同時進行だったんです。昼間はスタジオでレコーディングして夜はイリジウムでライヴというハード・スケジュール。これはその時のライヴ音源です。若手ミュージシャンとの共演には、先輩である僕が牽引しつつも逆に刺激を受けたりするという楽しさがあって、とても新鮮でした」

敬愛するギタリスト、ラリー・コリエルの名言「エレクトリック・ギターは太陽、そしてアコースティック・ギターは月である」。この言葉を拠り所としてエレクトリックとアコースティックの世界を行き来する渡辺香津美。どちらか一方をというのではなく、どうせなら両方楽しんでしまおうというギタリストとしての欲望に忠実な心意気こそが彼のエネルギーの源なのであろう。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年10月16日 14:47

ソース: intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)

取材・文 近藤正義

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