黒猫チェルシー 『HARENTIC ZOO』
これまでのイメージを覆すであろう、ターニングポイントとなる作品が完成! その変化をどう捉えられようとも、彼らは前進するのさ!
2作目となるニュー・アルバム『HARENTIC ZOO』で、黒猫チェルシーは実に明確な転機を迎えている。ファースト・アルバム『NUDE+』の発表以降、彼らはみずからに高いハードルを設定して変化を強いてきたが、今年3月に発表したミニ・アルバム『猫Pack2』から、まさかここまで劇的な変化が起きようとは、まったく思いもよらなかった。
「『猫Pack2』にも入ってる“東京”はいままで自分たちがやったことのないサウンドで、そういうのができたという自信からバンドの視野が広がったんです。それで〈何でもやってみよう〉っていう、このアルバムの大枠の空気感が見えた気がします」(澤竜次、ギター)。
「メンバーそれぞれの〈得意技(好きな音楽)〉をガッと合わせて、ゴッタ煮にするっていう感覚が今回すごくありました。自分のなかでホントに大事なもの、〈こういうのをやりたい〉っていうアイデアを持ち寄って、そこから何を使って遊ぶかを考えた感じです。今回初めてパソコンで曲を作ったりもしたんですけど、そうやって自分たちもドキドキしながら作ってましたね」(渡辺大知、ヴォーカル)。
こうして完成した新作は、パーカッションやピアノが各曲に散りばめられ、蜜の木村ウニやうつみようこがコーラスで華を添えた、ヴァラエティー豊かな作品となっている。なかでも、宮田岳(ベース)の〈得意技〉であるレゲエや中南米的な要素が大きく盛り込まれ、ヴァンパイア・ウィークエンドやベスト・コーストのようなトロピカルなテイストの“恋はPEACH PUNK”や、ボブ・マーリーの“Exodus”が元ネタになったという“ZANPANジャングル”などで聴けるサウンドは、彼らの新たな魅力を引き出したと言える。
「僕はもともとレゲエとかが好きで、それを他のメンバーが持ってる要素と合わせた時に、XTCやクラッシュみたいなおもしろい融合感が出たんです。僕らは4人ともそういう融合を楽しめるメンバーだと思うから、別にレゲエをやろうとしたわけではなくて、レゲエと何かを合わせて、さらに横から殴り込むようにギターが入ってくるとか、そういうのがおもしろいなって」(宮田)。
歌詞に関しても、渡辺がこれまでになく内面をさらけ出していて、憧れのヒーローに別れを告げる“さらば僕のスター”は、変化を選んだバンドの現状と見事にリンクしているようにも聴こえる。また、“雨のなか 〜I LOVE癒雨ブルース〜”では、これまで使ってこなかった〈アイラブユー〉という言葉が出てくるのも興味深い。
「〈アイラブユー〉と言えるバンドになりたかったというか、何でも言えるバンドになりたかったんです。インディーの時はそういうことを言うのは違うと思ってたけど、〈これは違う〉っていうのをなくして、〈何を言っても俺たちだ〉っていうふうにしたくて。だから、〈アイラブユー〉は意識して入れて、それが安っぽくならないよう周りの言葉に気を遣って書きましたね」(渡辺)。
これだけの変革作であれば、当然ファンの間で議論が巻き起こることもあるだろう。しかし、同じことを繰り返すのではなく、自分たちの信じる道を選んだ彼らを断固指示したい。もちろん、そんな外野の声などいまの彼らは大して問題にしていないだろうが。
「このアルバムを聴いて、もし違和感を感じたとしても、ライヴを見ればわかってもらえるんじゃないかなって」(岡本啓佑、ドラムス)。
「どんな分野でもそうだと思うんですけど、テンションが上がることに対して嘘をつかなければ、枯渇せずにやっていけると思うんですよね」(宮田)。
▼関連盤を紹介。
左から、11月7日にリリースされる蜜のファースト・アルバム『eAt me!』(EMI Music Japan)、うつみようこ&YOKOLOCO BANDの2008年作『ADULT NOIZE』(TRIPPIN' ELEPHANT)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年11月22日 19:20
更新: 2012年11月22日 19:20
ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)
インタヴュー・文/金子厚武