インタビュー

デニス・マツーエフ

リストの悪魔的な魅力とエネルギーを表現したかった

1998年のチャイコフスキー国際コンクールで優勝に輝いたデニス・マツーエフは、以来世界中を飛び回り、現在年間175回の公演をこなす。

「まるで飛行機のなかで暮らしているような生活。でも、偉大な指揮者と共演できるし、各地で自分の好きなプログラムでリサイタルも組めるし、本当に充実しているよ。ぼくは48のピアノ協奏曲のレパートリーと18のソロプログラムをもっているけど、リヒテルは92のプログラムをもっていた。ぼくなんかまだまだ駆け出しの部類さ(笑)」

彼がチャイコフスキー国際コンクールの本選で演奏したのはリストのピアノ協奏曲第1番。その思い出の作品を、同じくこのコンクールの覇者であるミハイル・プレトニョフの指揮、ロシア国立管弦楽団との共演で録音した。

「プレトニョフは1978年の優勝者。ちょうど20年の開きがあるんだ。それに彼もリストの第1番を弾いた。不思議な縁があり、この録音はふたりのリストへの思いが結実したものとなった」

ここには演奏される機会に恵まれないピアノ協奏曲第2番と《死の舞踏》も収録されている。

「リストは多分に誤解され、超絶技巧ばかりクローズアップされる。演奏されない作品も多いし。作品には多彩な要素が込められ、情熱的でときに哲学的ですらある。それを表現したかったんだ」

もう1枚、ワレリー・ゲルギエフとの共演でショスタコーヴィチとシチェドリンのピアノ協奏曲を録音した新譜もリリースされている。

「プレトニョフはクールな理性派だけど、ゲルギエフは熱血漢。二人で演奏しているとエネルギーがありあまって天井を突き抜ける感じ(笑)。ショスタコーヴィチとシチェドリンも入魂作だよ」

マツーエフとゲルギエフは11月に日本公演が予定され、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番で共演することになっている。

「この曲は二人の代名詞的な存在。ぼくは13歳でこの作品を弾き始め、いまではリストと同様に自分の血となり肉となっている。とにかく自然に弾くことを心がけ、作為的なことは絶対にしない」

192センチの長身、堂々たる体躯から生まれるロシア・ピアニズムの伝統を継承する演奏は、いずれの作品も迫力に富み、聴き手を圧倒する。

「最近の男性ピアニストは繊細でナイーブな演奏をする人が多く、女性のほうが力強い。ぼくは男らしく堂々とした演奏で作曲家の内なる意思を表現したい。シベリアのエネルギー全開でね(笑)」

LIVE INFORMATION
『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ワレリー・ゲルギエフ指揮 マリインスキー歌劇場管弦楽団』

11/8(木)大分iichiko総合文化センター
11/11(日)大阪ザ・シンフォニー・ホール
11/14(水)東京サントリーホール

11/9(金)熊本県立芸術劇場コンサートホール
※この日のみ、演目はラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年10月22日 13:20

ソース: intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)

取材・文 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)