インタビュー

照屋林賢

照屋林賢(右から2人目)&りんけんバンド

ポップに彩られた、格調高き「ウチナーのうた」がここに

しばしば、沖縄人は「ルーズ」「いいかげん」だといわれる。沖縄独特の言い方に「テーゲー」なんて言葉があるものだから「テーゲー文化」だ、なんて言う人もいる。

バンドでは9年ぶりとなる新作を前に、照屋林賢は開口一番「このアルバムは、テキトーにつくったからね」という。「作り始めたのは2年半ほど前です。リズム隊を録音した後くらいで作業がとまってそのままになっていたわけ。その中途半端な部分を埋めるようにして作っただけ」。笑顔で語る林賢の言葉を「テーゲー」で片付けるのは簡単だ。でも発言の裏にはちゃんと理由がある。

「レコード屋さんがどんどん閉まる状況で、もうビジネスを前面に出した音楽マーケットは衰退の一途をたどるのでは? という気持ちがあります。でもそこに僕たちは巻き込まれてはいけないと思うんですね。それでこの10年くらいはすごくテンションが下がっていたわけだけど、音楽をビジネスを結びつけるのは辞めよう、と思ったときに、アルバムを出す気持ちになったんです」。だから今回は自由に、適当に…と林賢は再び笑うのだ。

しかしその言葉を額面通りに受け取ってはいけない。いや、受け取るわけにはいかない。聴けば解るが、曲にしてもサウンドにしても手を抜いたようには聞こえない。なかでも大半を占める版画家、名嘉睦稔による詞の格調高さといったら! ウチナーグチがそれほど分からなくても、その美しさは伝わるはずだ。「久々にボクネン(名嘉睦稔)と組んだのはね、ウチナーグチの歌詞がかける人間がいないわけで」。とかわすが、ここに林賢の曲がつき、上原知子の歌声(林賢曰く〈神の声〉)を通すと、この曲がこれから数世代残すべき〈沖縄のうた〉になるのだろうと確信が生まれる。

曲と言えば、これだけじっくり聴かせる曲でも、これがりんけんバンドのステージとなると、まあ賑やか・陽気に演奏される。ここのギャップがどうして生まれるかを聞くと。「沖縄の人はね、ともかく楽しんでいってもらいたいんですよ。だからどうしてもサービスするようになっちゃうのね」とのこと。この精神は、戦後の沖縄に笑顔をもたらした父、故 照屋林助からの流れでもあるだろう。

テーゲーを装う林賢の言葉には惑わされず、ぜひ聴いておくべき一枚だといえるはずだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年10月26日 12:24

ソース: intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)

取材・文 渡部晋也