インタビュー

沖仁

奏でる音色から滲み出る、沖仁としての“フラメンコ”

2枚目となる沖仁のベストアルバム「MI CAMINO(ミ・カミーノ)」。ベストとはいえ11曲中、6曲は新録音という構成だが、一番の特徴はギターだけの演奏を集めたことになるだろうか。

「2枚目と言うことでギターだけのアルバムはどうかと提案がありました。でも僕の知る限り、現代のフラメンコのアルバムでギターだけって無いんです。最低でもパルマや打楽器が入っていますから。だからずいぶん大胆な発想だと思って作りました」

まるで嵐のような振る舞いを見せつつ、時には優しく語りかけるような沖のギターだが、どんなにアグレッシヴに奏でていても、そこに一種の疎外感というか、なにか冷めたような部分を感じるのは気のせいか。

「そうですか? すごくアグレッシヴだと言われるんですが。でもスペイン人やフラメンコについてある程度イメージを持つ人にはおとなしい感じがするとも言われますね。ジプシーの人達は自己主張も強いですから、彼らの中にいると、僕はどうしても聞き役になります。そんな部分が演奏にも出るんでしょう。それに彼らの文化の中にお邪魔しているという遠慮もありますしね」

ギターと共にスペインに渡ってから十数年かけて、フラメンコという文化の中に沖が切り開いてきた居場所。その風景が演奏に投影されているのだろう。ここに収められているのはほぼ全てがオリジナルだが、スタイルはフラメンコの流儀に沿っている。唯一のカヴァーと言えば《カノン》からピンクレディーのUFOまで幅広い曲をブレリアスのスタイルにまとめ上げたメドレー曲くらいだ。「フラメンコのキーに合うかどうか考えて、少しずつつなげていきました。まあちょっと笑ってもらえればいいなと思って」と、さりげなく茶目っ気を見せる沖だが、自らのスタンスについてはフラメンコの正統と沖仁としての音楽と。その二つの世界を往復していると分析する。

「自分が何を求められているかについてはすごく考えます。今はフラメンコという芸能と正面から向かい合って、チャレンジして、苦しみながら進んでいくということを期待されている気がしています。スペインで賞をもらったというのもすごく大きいですね。もらえなかったら僕は正統派のフラメンコをやる立場ではない、と思ったでしょう。でももらえたので……やはりこの線なのかなと」

デビューから12年。沖のギターは着実に彼自身のフラメンコを奏で始めている。それに耳を傾け、彼と共に歩むことを、素直に喜びたい。

LIVE INFORMATION
『沖仁AUTUMN-WINTER TOUR 2012』

12/15(土)福島市公会堂(福島)
12/16(日)仙台市青年文化センターシアターホール(宮城)


掲載: 2012年12月14日 15:54

ソース: intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)

取材・文 渡部晋也