インタビュー

挾間美帆インタヴュー(ロング・バージョン)

挾間美帆へのインタヴュー、すでにintoxicate誌vol.101(2012/12/10発行)とそれをそのまま転載したものがウェブにもあげられているが、そのなかにはもりこめなかったものが随分あるので、ここにあらためてお読みできるようにした次第。基本は、東京オペラシティでのニューイヤー・コンサート、CDアルバム、そして作曲についてと3つの柱で構成している。では、どうぞ。


©Miho Aikawa

ニューイヤー・コンサートについて

──挾間美帆さんは、2008年から東京オペラシティのニューイヤー・コンサートでの、山下洋輔作品のオーケストレーションをしています。そして、インタヴューをしている2012年11月現在、2013年1月11日(金)に開かれるコンサートの準備に追われているわけで……

「『2013年は誰やるんだろう。またアレンジでなんかしたいな』という程度に思っていたら、ある日突然「今年は挾間フィーチャーでいきたい」というメールが届いたんです。2007年のGWに、初めて山下さんからピアノ・コンチェルトのオーケストレーションをして欲しいと誘っていただいた時もメールだったんですね。その時は私、ほとんど面識がなかったものですから、ただ単に有名人からすごいメールが来てどうしよう、って家族会議になったんですけど(笑)」

──家族会議って(笑)

「お家に帰ってからまず、このメールは本物かっていうところから始まって、本物だからどうしよう、って。両親はプロのミュージシャンじゃないものですから、こんなことやって良いものか、っていうのはパニックだったと思うんですが、その時は失うものはないのでやりましょう、ということになったんです。今回も、急にメールで「挾間フィーチャーでお願いしたい」という風にまた、急に来たものですから。NYに住んでいたので、両親に速攻でSkypeしますって言って、今度はSkypeで家族会議して、Skypeで「しーん…」ってなったりしちゃって(笑)。どうしようって。でも、また、2007年の時と同じように、割とフレッシュな気持ちで挑戦できることならばやるしかないと、また、そういう結論に至りまして、担当させていただくことになりました」

──コンサートについて具体的に。

「コンサートの前半は山下洋輔さんの作曲したのをオーケストラにした作品、後半は私の曲となります。前者は松井守男さんの絵画にインスパイアされた山下さんのアルバム『Canvas In Quiet』から、色をテーマにした楽曲を7つ選び、弦楽合奏とピアノのためにオーケストレーションしています。対して、この『耳をすますキャンバス』(『Canvas In Quiet』)という題名が素敵だったので、今度は自分が感覚を研ぎ澄ませるような、空間で何か表現出来ると良いなと、形とか、柄とか、そういうものにインスパイアされた楽曲を、オーケストラと山下さんのピアノ、そして時々わたし自身のピアノというかたちで、考えてみました」


──ピアノを弾きながら指揮する、と。ときどき立ったりするのかしら。

「立たないと出来ない部分もたぶんあると思います。弾いていないときはたぶん立つと思いますね」

──じゃあ、衣装も凝らないといけないですね(笑)

「誰か良いとこ知っていますか? とか言って(笑)」

──指揮は前からやっていました?

「作曲を師事した夏田昌和さんに習っていたくらいです。二年間。でも、学校の一環だったので、ほぼ独学かな」

──今回のコンサートではもう全部自分で

「だいぶピアノのパートが多いのでコンサート・マスターの方と協力して、ですね」

──ピアノはどう置きますか?

「前半の部分ではもう完全にオーケストラに向かうので、私がお客さまに背を向けることになると。後半はまだ……。洋輔さんもいらっしゃいますから。洋輔さんは今のところソリストのように、前に、前で互い違いにしようかな、と思っています」

──自分で即興するというのは、かなり以前から?

「ジャズ・ピアノっぽいことを始めたのは、国立音大一年生の時、大学のビッグバンドに入ってからです。それまではずっとクラシックしか演奏してこなかったので、一概に得意とは言えないんです、正直に言っちゃいますと。長い間弾いていたわけでもありませんし、そこまで深く親しんでいたわけでもない。耳に馴染みがあるくらいだったので。ただ、そういう活動をしていくうちに、だんだん自分の曲を自分で弾いた方が早かったりするわけです。なので留学前にはピアノ・トリオでは自分がピアノを弾いてというのもあったんですね。それが、留学しているうちに、レコーディングでピアノを頼んだように、他の方にお願いしてみたいという気持ちが強くなった、というのはあります」

──山下洋輔作品をアレンジすることについてのポイントは?

「おなじアレンジでも、山下さんはちょっと特別なんですよね、方法が……。あの、ふつう、たとえばポップスとか、あるいは《A列車で行こう》でもなんでも、そういう曲をアレンジするときは、原曲とか、特に歌詞がある場合は、歌/歌詞にかなり気を遣って、イメージを壊さないように、でも、なおかつそこに自分のエッセンスをどれくらい入れられるか、入れて良いのか、それはときと場合によりますが、というか、如何に自分をそこにすりこませられるか、というコンセプトなのです。それが山下さんの曲は、要素がかなりシンプルなので、半分彼の意図がなんだったのか、すごくその短いフレーズとかモティーフのなかから探りだすことから始めなければいけない。

たとえば、今回演奏する7曲あるうちの3曲は、モティーフが4小節しかないとか、そういうことが多いのです。で、ピアノを一人で弾いてらっしゃるので、途中でクラスターをばんばんするようなところとかあると、オーケストラでは出来ない。1分半で終わっているものを1分半で終わらせるわけにはいかない。そうすると、やっぱりその1分半を拡張するためには、一体どこでどういう要素が出てきて、それに一体どういう意味があったのか。いくらインプロヴィゼーションでも、たぶん、何かインスピレーションがあったからそうなっているわけで、そのインスピレーションを探して、それを抽出して、じゃあ、それをどうやって発展させるか、ということになるのです。だから、前からずっとそうなんですけど、山下さんの脳内を探索する、というか、スパイし合うというか。そこから膨らませていくので、かなり真剣勝負です、いつも」

──多分に直感的なアイデアがぱっとあって、って感じですよね?

「そうでありながらここまでキャッチーなものをよく作れるな、っていつも思うくらいに耳に残るものですから、奥が深いんですよね」

──一種、瞬間芸的な側面がありますよね。

「あの、これまで、つまり前のニューイヤー・コンサートまでは、洋輔さんのためにピアノ・パートを書いていたので、楽だったんです、実は。洋輔さんは洋輔さんの曲をわかっていらっしゃって、演奏されるので。ただ、今回は洋輔さんじゃない方が洋輔さんの曲を演奏しなければならないので、しかもご本人の前で、なので……。一番困ったのはピアノのパートですね、1部で。洋輔さんがソロでお弾きになっていることをどういう風にトランスレートしていくのかが一番」

──そうですね。クラスターなんかもクセがあるし

「そうなんですよ。私、思考がそればっかりになっていると、やっぱり「あ、またか」というふうにオーケストラの演奏が聞こえてしまうので、そうならないようになるべくヴァラエティに富むように、と」

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カテゴリ : インタヴュー Web Exclusive

掲載: 2012年12月27日 17:48

interview&text:小沼純一(早稲田大学教授/音楽・文芸批評)