インタビュー

LATIF 『IV Love』



LATIF



[ interview ]

前作『Love Life』のヒットで日本における高い支持を改めて証明したラティーフ。テディ・ペンダーグラスを師と仰ぎ、いわゆるフィリー・ソウルの王道を継承しながらも、ポップであることを恐れないスタイルにも自由に踏み込む彼は、ソングライターとしての活躍を下地に高い評価を獲得してきた共通点も含め、ニーヨ以前から存在していた〈ニーヨ以降〉の筆頭格でもある。

そんな彼からミックステープ『Philadelphia Healing』を経て届けられたニュー・アルバム『IV Love』は、引き続き多彩なクリエイターと手を組んだ現行アーバン・ポップ集となっており、そこに一貫して普遍的な愛の物語を紡いでみせるのは彼一流のセンスに他ならない。そんなラヴ・マンの心情と信条を窺わせる最新インタヴューの到着だ。



音楽は人生のサウンドトラック



——過去作すべてタイトルに〈Love〉がついてますが、新作も『IV Love』という表題になりましたね。今回このタイトルにした理由は?

「僕にとって(モータウン時代を含めて)4枚目のアルバムだからね。愛のために(for love)という意味をかけてこのタイトルにした。今回のアルバムは3か月弱で完成したんだ。別にタイトルを深く考えていたわけでもないし、いくつか候補があったわけでもない。ただ、曲を聴いてたら『IV Love』が頭に浮かんだだけなんだよ」

——全体的なコンセプトはいつの時点で考えてどんなふうに生まれたのでしょうか? ひとりで考えましたか? それとも、何かの曲が出来上がってそこから?

「制作当時に自分が経験していたことばかりが表現されているんだ。もちろん、アルバムを作るうえで、ある程度のコンセプトを設定することは必要だよね。サウンドなりメッセージなり。でもそれ以前に、僕は自分が感じたこと、自分が経験したことを伝えることで、何か希望のようなものを人に与えられたら嬉しいと思ってるんだ。例えば、つい先日起きたコネチカットの小学校での銃乱射事件。被害者の人たちや家族の思いは計り知れないけれど、僕がここでその事件のニュースを見ている時にどう感じたか、何を思ったかは表現できる。そうすることで、誰かが何かを感じてくれるかもしれない。もし何か感じなくても、同じようにニュースを哀しい気持ちで観ていたなぁ、あの頃、って思いだしてくれるキッカケになる。それだけでいいんだ。音楽というのはそれぞれの人たちの人生のサウンドトラックになると思ってる。だから、今回のアルバムで表現したストーリーはすべて、僕がこの1年半で経験してきたことなんだ。僕のこの1年半の人生のサウンドトラックだね」

——今作でもいっしょにやっているライアン・レズリーとは、以前〈クインシー・ジョーンズとマイケル・ジャクソンの関係に似ている〉と言っていましたね。今回は2人でどんなことを表現しようと思ったのでしょう。

「僕たちは本当に特別な関係で、クリエイティヴの面でのケミストリーは最高だと思ってる。お互いを理解し合っているだけでなく、お互いをクリエイティヴなことで挑発し合って、刺激し合って進化することもできる。お互いのベストな部分を引きだして高め合える相手だと思う。他のいろんな人たちと仕事をするのも大好きだよ。でも、ライアンとの共作はいつも本当に最高のものが出来るし、それはこれからも変わらないと信じてる。昔はスタジオ以外でも毎日つるんでいたけど、いまはお互いに忙しくてなかなか会えないにもかかわらず、〈こういうヴァイブが欲しいんだ〉と言うだけで、あまり言葉にしなくてもちゃんと求めているサウンドを作ってくれる。それがライアンなのさ。今回彼といっしょに新しく作った“Mind, Body & Soul”は最高に気に入ってる曲。聴いててフィール・グッドになってくるだろ?」

——“Beautiful Breakup”のような曲も斬新なアプローチですよね。

「サーティファイドというチームといっしょにやったんだ。恋人と別れるのは辛いことだけど、辛いことだけでなく、新たな美しい何かが生まれるキッカケにもなるってことだよ。僕はよく経験することなんだけど、いっしょにいるときは見えないことって多いんだよね。もう我慢できないってところばかりに気が向いて、本当に大切なものが見えずにいる。別れて初めて〈僕は本当はこの人をこんなに愛してたんだ〉って気付くんだ。たとえヨリを戻せなくても、本当に愛してたと気付けただけで幸せだったんだ、あの時別れて正解だったんだと思ったりする。そうじゃなきゃ、いまでもケンカし続けていたかもしれないし、結婚なんてしてたら結局は離婚ってことになりかねなかったかもしれない。心から愛していたこと、それでも、僕の人生においてはそういう相手だったんだと素直に受け入れられるのは素晴らしいことだと思うんだよね」

——サーティファイドは素晴らしい仕事をしてますよね。実は今作で個人的に気に入ってるのは、彼らの手掛けた“Navy Blue”なんですが……。

「僕も好きだよ! あの曲は2日かけて書いたんだ。トラックを初めて聴いたとき、涙が止まらなかったんだ。とにかく暗い気分になってしまって、その日はもうスタジオにはいられなかった。それで翌日に新たな気分で曲と向き合うことにした。哀しい印象のある曲に、まったく真逆の、美しい愛の物語を乗せてみたのさ。僕は基本的にトラックの印象は崩さないようにするタイプなんだけど、少しヒネリを加えて、アーバン・カントリー・ソングのようなアプローチにしたんだ。それにテーマ(タイトル)をネイヴィー・ブルーにしたのは、みんな青い空のことは歌うけど、夜の美しい空の色のことは書かない。星や月のことは書いても、空そのもののことを歌った曲ってあまりないと思うんだ。真っ暗な空に星が2つ輝いていると、周りがネイヴィー・ブルーになる。ワオ!って感じだろ? 夜に恋人と散歩に出かけて、空を見上げたら星が2つ。僕とキミの星だよ。ほら、すごくキレイな夜空だって。僕自身もすごく気に入ってる曲なんだ。曲を書く時は絵を描くようにだんだん形が出来てくるんだよ。夜空の美しさがどんどん目の前に広がってくれれば嬉しいし、音楽は受け取る人によって意味も変わってくるものだから、まったく違うものを思い描いてもらっても構わないけど、僕はどうしてもネイヴィー・ブルーの夜空の美しさを表現したかったんだ」



真のフィラデルフィアの音楽をもう一度建て直さなきゃいけない



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——今回、久しぶりにミュージックの“Teachme”を共作したカーヴィン&アイヴァンといっしょに“More Than Anything”をやってますね。久々に彼らとの仕事はいかがでしたか?

「やっぱり彼らとのケミストリーは最高だな、と再認識したよ。自分たちでも驚くほどね。だから、実は彼らとは他のアーティストのための曲もいくつか完成させたからもうすぐ聴いてもらえると思うんだけど、いっしょに作品を作ることが自然だと、新しいことにも恐れずにチャレンジできるし、ジャンルを超えてやることもできたりする。お互いを心から信頼してるからできることだよね」

——前作でのケミストリーの素晴らしさを語っていたフレドロが今作でもいっしょなのは驚きませんでしたが、他にコラボした人たちの選択は? コルジャやビッグ・シティのようなまったく聞いたことのない名前もあるのですが。

「僕はいっしょに仕事してる人たちのファンなんだよ。ビッグ・シティは新人だけど、みんなの仕事のファンだというのがいちばんだよ。No.1のレコードをプロデュースしたことがあるかどうかよりも、僕がその人の作る音楽のファンになれるかどうかがいちばん重要なんだよ」

——そのビッグ・シティはチームですか? それとコルジャも新人ですよね?

「ビッグ・シティはドイツのプロダクション・クルーだよ。彼らのビートを聴いてすぐにファンになったんだ。僕のアルバムのエグゼクティヴ・プロデューサーのロッドが見つけてきてくれた。コルジャはロッドがマネージングしてるんだ。彼は素晴らしいミキシング・エンジニアで、フレッシュなプロデューサーだよ」

——あなたの故郷であるフィラデルフィアについて少し伺います。 以前出されたミックステープ『Philadelphia Healing』のイントロで〈wake my people it’s time to say so long to Philly mentality and say hello to Protest Music, Life Music, Spiritual Music〉(みんな目を覚まして、フィリー・メンタリティーに別れを告げて、プロテスト・ミュージック、ライフ・ミュージック、スピリチュアル・ミュージックにハローという時が来たんだ)と言及しています。

「いまメディアでは〈フィリー〉と言うと、なんかネガティヴな印象を押し付けられている気がしてね。フィラデルフィアほどディープなカルチャーはない。でもいま〈フィリー〉っていうと軽く見られたりするんだ。〈フィリー〉はメンタリティーで、〈フィラデルフィア〉はカルチャーだと僕は思ってるんだよね。素晴らしい歴史であり、ポジティヴな場所——そういうフィラデルフィアを表現したかった。真の魅力にもう一度目を向けて、ってこと。ボーイズIIメン、テディ・ペンダーグラス、パティ・ラベル、フランキー・ビヴァリー。みんな〈フィラデルフィア〉出身。省略してフィリーと呼んでいるのも理解はしているけど、僕たちは真のフィラデルフィアをもう一度建て直さなきゃいけない。僕たちには人生のサウンドトラックが必要なんだ。僕は説教しようとしてるんじゃなくて、素晴らしい曲のすべてはそれぞれの人たちが経験したことから生まれてる。他の人の経験から学んで成長することもできるはずさ」

——今後やってみたいことは?

「これまでと同じく、音楽を通じて、夢を叶えたいと誰かに思ってもらえたら嬉しいな。それ以外では、人間としてもアーティストとしても、成長したい。メンタルな面もスピリチュアルな面でも。まず人間として自分が成長すれば、作る音楽も洗練されるはずだと信じてる。そうそう、ビジネスマンとしても成長したいな(笑)。今年実感したことだけど、ビジネスをきちんとわかっていれば、やりたいことをやる機会も自分で増やすことができるからね。さっきも言ったけど、今度こそは日本に行くから。行かないわけにはいかないだろ!?」


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掲載: 2013年01月16日 18:02

更新: 2013年01月16日 18:02

インタヴュー・文/Kana Muramatsu

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