インタビュー

SHANTI

欧州発のヌーディなチャレンジ

オランダのレーベル「チャレンジ・レコード」からのオファーで、2010年リリースの『Born to Sing』と11年の『Romance with Me』からセレクトしたナンバーを収録したアルバム『cloud 9』をリリースするSHANTI。実はこの作品、ヴォーカルをすべて再録音、つまり「歌い直」して、ゲストにピアノとトランペットを加えミックスし直すという、ただのコンピとは一線を画する工夫が施されているので、新作と呼んでも不思議じゃないほど彼女の現在進行形の姿を捉えた内容になっているのだ。

そもそも、なぜ「歌い直」すほどの大幅なリエディットが必要だったのかといえば、ひとえに音響意識を含めた文化的相違があったから。オランダに限らずヨーロッパにはクラシック音楽を築き上げた音楽文化が存在し、ポピュラー音楽にも大きな影響を与え続けている。「音の好みの違い」と言ってしまえばそれまでだが、日本というドメスティックな条件で制作されたパッケージをヨーロッパでも紹介したいと彼らが考えたときに、より自分たちの好みに近いサウンドで「味付けし直そう」と試みた結果が、今回のリエディットという作業になったということなのだ。

「私的にいちばん気に入っているのは、マーク・ヴァン・ローンさんとのデュオ。曲がもっているintimate、つまり男女の距離というか親密度を表現したかったんですけど、『こんな素敵な人に出会えるなんて……』という驚きのようなニュアンスまで上手く歌えたんじゃないかと思います」

ヨーロピアン・ジャズ・トリオのピアニストとして日本でも人気のマーク・ヴァン・ローンとの甘く切ないデュオ《Who are you ?》は完全に録り直し。また、欧米発売盤とは別に、日本仕様としてボーナス・トラック《見上げてごらん夜の星を》が追加されているのも要チェックだ。

文化の壁は、彼女の歌い方にも影響を与えた。日本では感情を抑えたほうが「表現力がある」とされるのに対して、オランダの録音現場では「もっと感情を出して!」と言われた。「言葉をもっとアニメイトさせて、フィーリングを込める」方法を試行錯誤した結果、このアルバムで「歌い直」された彼女の声はシンプルに磨き上げられ、「裸っていうか、ある意味ヌード的な扱いになっている」と、嬉しそうに笑って自信を窺わせた。世界に通用する“裸の声”を見つけたSHANTIは、すでに次のアルバム制作に取り掛かっている。

掲載: 2013年01月18日 19:49

ソース: intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)

取材・文 富澤えいち