インタビュー

DARKSTAR 『News From Nowhere』



ジェイムズ・ブレイクやSBTRKTなどを例に挙げるまでもなく、ダブステップはさまざまなジャンルと接合することで刺激的なサウンドを生み出し続けている(いわゆる〈ポスト・ダブステップ〉と呼ばれる流れだ)。R&B、ハウス、ミニマル・テクノ、ドラムンベース、UKガラージなど、これまでにダブステップが呑み込んできたジャンルを挙げ出すときりがない。この動きは2000年代後半から顕在化していたが、いまもその勢いは止まる気配がないと言っていいだろう。そして、エイデン・ウォーリーとジェイムズ・ヤングによって結成されたダークスターもまた、そんなダブステップの進化形を体現するアーティストとして登場した一組だ。

ハイパーダブから2010年に届けられたファースト・アルバム『North』で聴くことができたのは、ダブステップの冷気を纏ったシンセ・ポップ。初期シングルでは〈打ちひしがれたクラフトワーク〉とでも言うべきロボティックで伏し目がちなダンス・トラックを鳴らしていたが、シンガーのジェイムズ・バッテリーの加入を経て、アルバムでは一気にニューウェイヴ的な歌モノへと傾倒した。ヒューマン・リーグが泣き濡れているような“Gold”の陰鬱なカヴァーは、そんな同作の方向性を何より象徴していたと言っていいだろう。

そうした初期シングルから『North』への変化にも驚かされたものだが、このたびワープに移籍して送り出されるセカンド・アルバム『News From Nowhere』は、さらなる驚きで迎えられるに違いない。色彩豊かで幻想的なアートワークが示唆するように、彼らは本作で漆黒の闇を抜けてカラフルで夢見心地な世界へと旅立っている。ダブステップ的な暗い感覚は大きく後退し、代わりに打ち出されたのはキラキラと輝く美しいシンセ・サウンド。そう、ここにはシューゲイザーやドリーム・ポップ的な甘い恍惚や陶酔が広がっているのだ。

「すでにモノクロなものはやったから次はカラフルな感じもいいんじゃない?って。それに前よりもっと気楽な曲が多いね。ライトアップするためにいろいろチャレンジしたんだ」(エイデン)。

「同じことよりも新しいことをして前進するのが大事だからね」(バッテリー)。

今回の新しいサウンドは、活動拠点のロンドンを離れ、ウェスト・ヨークシャーの一軒家にこもって作り上げられた。また、電子音楽のアーティストにしては珍しく、外部プロデューサーも起用(エジプシャン・ヒップホップらを手掛けたリチャード・フォームビー)。みずからの音楽性を更新するため、意識的に制作環境を変えたことが窺える。

「ロンドンに10年もいたから環境の変化を欲していたんだ」(バッテリー)。

「(新作を制作したのは)とても静かで落ち着いた環境だったから、それでハッピーな感じで曲が書けたのはあるかもね」(ヤング)。

「もうひとつだけ。作業って凄く孤立したものだから、サウンド・ボードを作ってまとめてくれるのもプロデューサーの役目だと思う。その点でもリチャードと作業できて良かったよ。彼は古い機材の使い方も詳しかったしね」(バッテリー)。

初期シングルからファースト・アルバム、そしてファーストからセカンド・アルバムへの変化を追う限り、どうやら彼らは単一の音楽性を突き詰めていくタイプではなく、作品ごとにガラリと自分たちを塗り替えるタイプらしい。「アルバムを作り終えてほっとしている半面、すでに次はこうしたいっていう課題も見えたから、また先のことを考えはじめてるよ」と、バッテリーは早くも次作での新たな挑戦に意欲を見せている。もはや〈ポスト・ダブステップ〉というレッテルからも軽やかに解き放たれたダークスターがどこへ向かっていくのか、これからも興味深く見守りたい。



PROFILE/ダークスター


ジェイムズ・ヤング、エイデン・ウォーリー、ジェイムズ・バッテリーから成る3人組。2006年にジェイムズ・ヤングとエイデンがロンドンで活動を開始する。2007年に2010よりファースト・シングル『Dead 2 Me/Break』をリリース。その後、クラブ・イヴェント〈FWD〉への出演や、2009年にハイパーダブから発表した12インチ・シングル“Aidy's Girl Is A Computer”が話題を集める。2010年初頭にシンガーのジェイムズ・バッテリーが正式加入し、10月にファースト・アルバム『North』をリリース。2012年11月にワープに移籍して“Timeaway”を発表。2013年1月23日にセカンド・アルバム『News From Nowhere』(Warp/BEAT)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年01月24日 20:30

更新: 2013年01月24日 20:30

ソース: bounce 351号(2013年12月25日発行号)

インタヴュー・文/小林祥晴