LONG REVIEW――lynch. “BALLAD”
メロディーに対する実験で掴んだもの
思い返すと、メジャー移籍以降のlynch.のシングルは、常に実験の場として機能しているような気がする。2011年11月に発表された“MIRROS”はリズムに重きを置かれた一枚で、BPM230の超高速2ビートで鬨の声を上げる“THE TRUTH IS INSIDE”、風変わりなリズム・パターンで激走する表題曲、シャッフル・ビートが挑発的にしなる“DEVI”と、独創的なうえに速いリズムが艶めかしいメロディーのボトムを強固に支えていた。
その“MIRROS”の持つスピード感、瞬発力をフル・アルバムのヴォリュームで踏襲した『INFERIORITY COMPLEX』を経て、昨年10月にリリースされたのは“LIGHTNING”。作詞の際に「初めて外に向けることを意識した」と葉月が語っていた同曲は、そのメッセージ性の高い言葉を引き立てる旋律の完成までに幾度も変化したという。
そして今回のニュー・シングル“BALLAD”も、前作に続いてメロディー・コンシャスな作り。とめどなく流れゆく歌をしっかり取り囲み、美しいフォームで疾走するバンド・アンサンブルと、冷たい光を放つ鍵盤の響き。極端な展開は差し込まず、歌が、ギターが流麗なメロディーを交互に引き継ぐことで、エンディングまで絶えることのないしなやかなラインを描いている。
また、カップリングの“CRYSTALIZE”は、軽快な4つ打ちで不意打ちを喰らわせつつ、後半でファットなデジ・ロック路線へと転じるポップなナンバー。ここまでフィジカルに弾む曲調も彼らにしては珍しいが、歌も、そもそも持っている特性以上に歌謡性が高い。
とはいえ、本作はやはりどこからどう聴いてもlynch.の音なのである。葉月は今後の方向性に自信を漲らせていたが、メロディーに対する創意工夫を重ねることで掴んだバンドのオリジナリティーを、5人はどう増幅させるのか。〈この先の音〉を耳にする日が、早くも楽しみでならない。