KREVA 『SPACE』
新しい作曲方法を見い出し、いま響かせるべきポピュラー・ミュージックを彼らしくデザインした新作。ここからどんな〈SPACE〉が見える?
〈素晴らしい。文句なしの最高傑作ですね!〉と、ほとんど興奮気味に6枚目のアルバム『SPACE』の感想を述べる筆者に対して、当のKREVA本人は至って冷静だったが、その表情と言葉には揺るぎない自信を覗かせる。
「真摯に音楽と向き合って、新しい曲作りのアプローチにチャレンジしながら、明るいアルバムを作りたいと思ったんです。それが良かったのだと思います。逆に言えば、真摯に音楽と向き合ったからこそ、ただ明るいだけのアルバムにもならかった。そういう意味でもすごく俺らしい作品になったと思いますね。客演もないし、〈これが俺のアートだ〉っていう気持ちがある」。
この発言にもあるように、本作は明るいアルバムを作りたいという思いが制作のスタート地点だった。なるほど、確かにKREVAの楽曲はサウンドがどれだけ陽性なムードを押し出していようと、必ずどこかに味わい深いメロウネスや切実なリリシズムが滲んでいる。もちろん、それこそが彼の音楽性における核心であり、魅力であるのは間違いないが、KREVAはさらなる高みを見るために作曲の方法論を見直した。
「あえて自分の得意なメロウで切ないコード感はなるべく排除する方向で曲を作っていって。もちろん能天気に明るい作品にはしたくなかったし、やっぱりメロウな感じが出ている曲もあるんですけど。それは俺が曲を作るとどうしたって滲んでしまう部分だし、音楽家として根本的な性質でもあるから。だからこそ、明るいものを作ろうとすることで曲作りの新しい扉を開きたかった」。
そして、その新しい扉を開く鍵になったのが、EDMをいかにKREVA流に昇華するかという点だった。
「一昔前はヒップホップが音楽の流れを変えていた時代があったけど、いまはEDMがそれに代わる存在になっていて。EDMと向き合いながらも4つ打ちでラップするのはサッカーとフットサルくらい違う感覚があるから、それはやりたくないという思いがずっとあったんですよね。それを踏まえて、EDMで使われるようなシンセ・サウンドを採り入れつつも、ビートはヒップホップらしいブレイクビーツ的な音が鳴っているトラックのイメージを追求しました」。
そして『SPACE』というアルバム・タイトル、テーマを掲げた経緯はこうだ。
「この1年くらい水泳を一生懸命やっているんですけど、曲作り以外の何かを集中してやる時間を作ると、曲作りに戻った時に頭のなかにスペースが生まれて、アイデアもシュリンクすることができる。その好循環をすごく実感したんです。タイトルとテーマを〈SPACE〉にしようと決めてから、同じワードをいくつかの楽曲に散りばめたり、歌詞にも統一感が出た」。
リリックはウィットに富んだものから情感に訴えるものまで、音楽と真摯に対峙しているKREVAの姿が浮かび上がるものが多い。
「俺にしか言えないことをラップして歌おうと思うと、やっぱりどうしても音楽と向き合っている自分を描くことになるんですよね。自分のことを歌っているから入口はミクロなんだけど、ミクロを突き詰めると、その先には多くの人に通じるようなマクロな広がりが生まれると思うんです。“SPACE”のリリックに〈入口はミクロ/その先はマクロ〉というフレーズがありますけど、それはアルバム全体のテーマでもあります」。
EDMをヒップホップの力学でもって独自性のあるものに昇華した、そのサウンド・デザインにおいても、ラップのスキルと精度においても、メッセージの説得力においても、そしてポップ・ミュージックとしての求心力においても——つまりどの切り口から捉えても、絶対に彼にしか創造できないと断言できるエレメンツで本作は形作られている。だからこそ、これがJ-Popのフィールドでどういう響き方をするのか、非常に興味深い。
▼KREVAの新作のインスト集『SPACE Instrumental』(ポニーキャニオン)
▼KREVAの近作を紹介。
左から、2011年作『GO』、2012年のミックスCD『BEST OF MIXCD No.2』、『SPACE』の先行シングル“OH YEAH”“Na Na Na”“王者の休日”(すべてポニーキャニオン)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年03月19日 15:25
更新: 2013年03月19日 15:25
ソース: bounce 352号(2013年2月25日発行)
インタヴュー・文/三宅正一