インタビュー

bird

『HOME』と『bird's nest 2013』
紛れもなくbirdの現在がここにある

ジャパニーズ・クラブ・クラシック『SOULS』でデビューしてからこの3月で15周年を迎えるbird。それを記念して、2組のアルバムがリリースされる。ひとつ目のタイトルは、『HOME』。ギタリスト、樋口直彦とアコギと彼女の歌のみで構成されたセルフ・カヴァー集(新曲2曲を含む)。ふたつ目は『bird's nest 2013』。こちらは15年間の飛翔が記録された最新ベストだ。彼女にまず訊いたのは、この15年で変わったこと、変わらないこと。

「そうですねぇ…。変わらないのは、音楽が楽しいってこと。変わったってことで言えば、つねに新しいことをやってみよう、おもしろいものを探そうとしてきたので、そういう意味では、つねに変化しているのかな。まあ、変わるというよりは、自分の引き出しの中に少しずつアイテムが増えている感じです」

新鮮な楽しみや刺激を求めてひたすら羽ばたき続ける彼女の音楽人生を紐解くうえで、〈旅〉というキーワードはやはり切り離せない。それは新作においても同様なのだが、今回は〈HOME〉なるタイトルが付けられていたことが興味深くて。そういったことで、まずは〈変化〉について質問をしてみたかったのだ。

「樋口さんといっしょにやり始めて結構長いんですけど、2年前ぐらいから行ったことのない場所に行ってライヴをやろうと、それもライヴハウスやコンサート・ホールではなくて、家具屋さんだったり、映画館だったり、学校の校舎だったり、普段は音楽をやるところじゃないけど雰囲気のある味わい深いスペースを選ぶ、そんな試みを続けてきたんです」

『そうだ ○○、行こう。』 と名付けられたこのライヴ・シリーズはいまやすっかり名物企画となっている。ステージの上にあるのは、ギターと歌のシンプルな演奏。どこの会場も演者と観客の距離感が近く、そのアットホームな雰囲気は極上のくつろぎ感を与えてくれると人気を博している。

「その感じが、やりだすとすごくおもしろく思えるようになって。お家みたいな空間でライヴしている雰囲気をそのまま残したいって気持ちからアルバムの企画がスタートしたんです。『そうだ ○○、行こう。』を始めるまでは、音楽を携えて全国を回ることとプライベートの旅って切り離されていたんですけど、最近はリンクしているんですよね。ある意味で、日常の延長に旅があると言えるというか」

アットホームな雰囲気を湛えながらも、旅情感をそそるような音楽が詰まった『HOME』は、フットワークが軽くなった現在の彼女を投影した作品であるのだと納得。それと同時に、いっそうパワーアップした臨機応変な対応力も映し出している。

「樋口さんとは10年ぐらいの付き合いになるんですけど、フル・バンドでやることを前提に作られた楽曲をふたりで何とかするというのがテーマ。ふたりだけでは難しい楽曲でも、とりあえず一回やってみて着地点を探ってみる。その作業が新鮮なんです。楽曲が変化していくことをいかに楽しめるか。デュオだから変化が著しく表れておもしろいんですよ。樋口さんはいろんな難題に挑戦することに抵抗がない人なので、共にビルドアップできているんだと思います」

ところで、あなたにとって〈HOME〉とはどんな場所?

「う~ん、やっぱり寒くない場所ですかね(笑)」

冒険の同伴者として非常に素晴らしいギタリストと共に心地よい空間作りをめざした『HOME』は、これまでの作品のなかでもっとも暖かい部屋となっている。一方、自身の選曲による『bird's nest 2013』はどのように編まれたのか。

「もしベスト・ライヴをやるなら、こういうラインナップになるかなって感じです。2枚組だから2部構成ってことでいいか、なんてふうに曲順もライヴのセットリストのように考えてみたりして。有名曲も別テイクにしたり、8年前のときのベスト盤と変化をつけるよう意識しました。とにかく現在はライヴが中心ですから、ライヴの場で育ってきたという印象を持つ曲は入れたりしていますね」

という話でもわかるとおり、両作を聴いて見えてくるのは、紛れもなくbirdの現在。ライヴを重ねながら着実にスキルアップを実現し、充実した日々を送る現在の彼女だが、この15年間の自己評価を最後に訊いてみた。あなたにとって、birdとはどのようなシンガーに映るのか。

「どうなんでしょう……歌が好きな人って感じですかね。歌っていられたら幸せな人ですから。あとは、わりと柔軟な人。最近は特にそう思う。ライヴも現場に着くまで何もわからない、って会場が多いんですけど、それが楽しい。別に結果がうまくいかなってもいいや、楽しい時間が過ごせればいい。歌という手段で時間をつなぐというか、何事も構えないほうがいいと思うんです。私にとって歌は対話の手段。音楽は、誰かと繋がっていることを気付かせてくれるもの。日本語のようなものであり、それがないとバランスが取れなくなると思うんです」

夏ごろにはまた新しいアルバムが届くという。それまでこの2作をじっくり聴きこんでおきたい。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年03月19日 12:36

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 桑原シロー