藤倉大
いま世界が求める音楽がここにある
=作曲家・藤倉大に聞く作曲の秘密
サントリーホールで開催された『作曲家の個展2012─藤倉大』がCDに!
昨年の10月にサントリーホールで行なわれた『作曲家の個展2012-藤倉大』はとても〈面白い〉コンサートだった。現代音楽の演奏会では珍しいことだ。ひとつひとつの作品の個性が際立っていて、しかも聴きごたえあるものばかり。その個展でのライヴ録音がこのたびcommmonsからCDリリースされることになった。
当日演奏されたのは全部で5曲だが、その内世界初演となったバスーン協奏曲を初め、12人のチェロ奏者用に改訂された《ミラーズ》、そしてあのエル・システマから生まれたシモン・ ボリバル交響楽団のために書かれた《トカール・イ・ ルチャール》(サントリー芸術財団委嘱作品)など4曲、話題作ばかりを収録した。比較的新しい作品がまとめて録音され、CD化されることも珍しいだろう。
藤倉の活動はテレビ『情熱大陸』でも紹介された。イギリスを拠点に、世界的な活躍を続けている。いきなり不躾だけれども、現代音楽がどうやって書かれるのか、その現場の話を聞いてみた。
「基本的には誰かから作品を委嘱されるというのが書くきっかけになりますね。もちろん、今度はこんな作品を書いてみたいという自分なりのアイディアは常にいくつか持っているのですが、それが実現するとは限らない訳で、なかなかタイミングも難しいのです」
と藤倉。このインタヴューはその『個展』の前日に行なわれた。
「タイミングの他に、この演奏家、オーケストラにはこんな作品が似合うのでは、という点も大事です。例えば今回演奏される《TOCAR Y LUCHAR FOR ORCHESTRA(トカール・イ・ルチャール)》は、ヴェネズエラのエル・システマのオーケストラのために書く事になったのですが、書くのに相当苦労した作品でした。2〜3ヶ月、全然書くことが出来ずに、目まいがしたり、書いている間も調子が悪かったり。あのオーケストラのためにはどんな作品が良いか、いわゆる現代音楽的な要素を少なくして作品を書こうと、たぶん考えすぎたのが原因かもしれないのすが、理由は分からなかった。そしてヴェネズエラで初演されたのですが、そんなに苦労した作品が、今では僕の作品の中で最も演奏されています。不思議な気分です」
この《トカール・イ・ルチャール》に加えて、世界初演となったバスーン協奏曲(パスカル・ガロワの独奏)、そしてシカゴ交響楽団の6人のチェロ奏者のために書かれた《ミラーズ》は今回東京都交響楽団の12人のチェロ奏者のために改訂され、さらに《アトム オーケストラのための》が加わる。近年の藤倉の代表作が集まっている訳だ。
「もう以前みたいに、初演前だからナーヴァスになるとか、そういうことは無くなりましたが、実際に演奏するホールでのリハーサルが出来ないことも多いので、そういう時はかなり神経を使ってリハーサルを聴いています。でも、今回は東京都交響楽団という素晴らしいオーケストラを下野竜也さんが指揮して下さるということで、まったく心配していなかったです」
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