他人に歌わせるから書ける歌詞ってある
他人に歌わせるから書ける歌詞ってある
マツキ「僕らの新譜は聴いていただけました?」
坂本「聴きましたよ。なんかね、ヴォーカルの歌い方が変わった気がした」
マツキ「ホントすか。前よりも力を抜いて歌ってる気がします」
坂本「なんか、昔の日本のロックっぽいと思った。〈ニュー・ロック〉って言われてる頃の。乱魔堂とか思い出したけど」
マツキ「もともと60年代とか70年代の音が好きなんで、今回は原点回帰って言われるのかなとも思うんですけど」
坂本「原点ってこういう感じだったの?」
マツキ「もともとその、U.F.O.CLUBとかでやってた頃は、もっと和モノというか……」
坂本「リズム&ブルースみたいなのじゃなかったの?」
マツキ「リズム&ブルースみたいなものもやってるんですけど、ギターで言うと、歌のバッキングではペラペラなカッティングしてるものの、ソロになるといきなりファズが出てくるみたいな」
坂本「へえ~、ちょっとGSみたいな感じ?」
マツキ「思いっきりGSでしたね。一時期のザ・ヘアみたいな感じで」
坂本「へえ~」
マツキ「いまみたいな感じになったのはもうちょっと後ですね。でもまあ、そんなにやってることは大きく変わってないですよ。坂本さんは、ソロになって曲作りの仕方って変わりました?」
坂本「ベースを自分で弾くから、ベースで作るようにはなったけど、基本は変わらないですね」
マツキ「作品の完成形っていうのは、イメージ通りのものを作るって感じなんですか? それとも、やりながら決まっていくみたいな」
坂本「バンドのときはある程度作って、他のメンバーやプロデューサーの石原(洋)さんの色が加わって、思ってもみない感じになるのを楽しむ感じだったけど、ひとりでやるとそういうのもないから、ホントにすごく作り込んで、それを再現する感じ。だけど、それもまあ限界があるのかなって思ってて、次はちょっと考えようかなって。SCOOBIE DOは他のメンバーが作曲に加わったりはしないの?」
マツキ「そうですね」
坂本「過去1回も?」
マツキ「いや、何回かあるんですよ。ヴォーカルのコヤマが詞を書いたこともあったし、ドラムのMOBYが曲を作ったこともあるし……でも、結局自分がまとめなきゃいけないみたいな感じになるんですよ」
坂本「でも、ヴォーカルじゃない人が歌詞作って、ヴォーカルは歌うだけっていうSCOOBIE DOのスタイルはおもしろいね」
マツキ「あ、ホントですか!」
坂本「あんまりないんじゃないの?」
マツキ「それこそザ・ヘアがそうでした」
坂本「あ、そうだね。歌ってる本人が作詞してないってことで、1回フィルターがかかるから、歌謡曲的な感じも出るし、う~ん……逃げ道もあるよね」
マツキ「逃げ道ですか(笑)」
坂本「他人に歌わせるから書ける歌詞ってあるでしょ?」
マツキ「それはありますね」
坂本「自分で歌うとなるとちょっと、っていうのはあると思う」
マツキ「自分で歌うとなると、そもそもこういう音楽をやらなかったかもしれないですね。バンドだから、バンドの曲を作るっていう感覚でやってるんですよ」
坂本「たぶんね、そこはすごく重要で、なんかね……ありますよ。他の人の詞書いたこともあるんだけど(salyu × salyuの2011年作『s(o)un(d)beams』に3曲提供)、他人の曲だったら無限に作れるような気がして。自分の曲を作りながら、歌詞さえなければいくらでもできるのになあって思ってたんだけど、他人が歌うんだったら結構いけるらしい(笑)。まあ、そこまでガンガンやろうとは思ってないんだけど」
マツキ「どのへんがいちばん違うんですかね?」
坂本「う~ん……やっぱだから、〈架空の世界〉っていう暗黙の了解みたいなのがあるからかな。例えば、いくらフィクションだとか、架空の世界観を歌ってますって言っても、書いた本人が歌うことでそこがね、曖昧になるというか、完全に自分の言葉じゃないっていう言い訳が通用しなくなると思うんですよね」
マツキ「うん」
坂本「昔の歌謡曲とかすごく好きなんだけど、ああいうなんかめちゃくちゃな世界観とかも、〈作詞家が作って歌わせられてる〉みたいなので出来てる。なんかこう、嘘っぽい世界なんだけど、説得力があるなと思って」
マツキ「アイドルの曲とか書いてみたらどうですか?」
坂本「いや、いまのアイドルはホントわかんないんで」
マツキ「聴いてみたいですけどね。オファーはないんですか?」
坂本「ないですねえ。というかね、オレはもうね、死ぬまで逃げ切りたいんですよ」
マツキ「(笑)」
坂本「そういう、何ていうの? 業界のしがらみみたいなところから」