SISTERJET with DOTS+BORDERS 『「NEW QUAD」2×2=4 / very well L.P.』
昨年ベーシストが脱退し、ヴォーカル/ギターとドラムスの2人組となった新生SISTER JET。今年5月にリリースされた『3-1=2 / No Limit e.p.』ではWATARU.Sがベースの低音を補うギター・プレイを編み出すことでミニマムかつマキシマムなロックンロールを放ちはじめたが、そんな彼らの頭の中には、バンドの進化を押し進める新たなアイデアがあった。
「2人になった時にKENSUKEと話してたのは、楽器を捨てて打ち込みをやってもいいし、自由になったなということ。それでまず2人でやってみたんですけど、一方で2009年の“恋してクレイジー”で弾いてもらった堀江さんの鍵盤をもう一回聴きたいという強い思いもあって」(WATARU.S)。
the HIATUSやコーネリアス、高橋幸宏の新バンドであるIn Phaseなど、カッティングエッジな現場で鍵盤奏者やプロデューサーとして活躍する堀江博久は、そんな熱烈なオファーを受けて、以下のように語る。
「〈ロック・バンドはやっぱり4人編成でしょ〉と思いつつも、鍵盤の自分がバンドに入ると5人編成になってしまうことが多くて(笑)。だから、自分としてはいままであまり試したことがない4人のアンサンブルに興味があったし、ゴリッとしたカジさんのベースも久々に聴きたかった」(堀江)。
そこで招集されたのが、カジヒデキと堀江博久から成る伝説のユニット、DOTS+BORDERS。ミニ・アルバム『TOKYO TAPES』(99年)を発表後、2009年のライヴ再開まで長らく眠っていたスウィンギンでサイケデリックなビート・ロック・デュオが合流したことで、ロックンロールのミラクルを生み出す方程式、SISTERJET with DOTS+BORDERSのファースト・アルバム『「NEW QUAD」2×2=4 / very well L.P.』がここに完成した。
「今回の録音作業は、ちょうどストロークスやフェニックス、ヴァンパイア・ウィークエンドなんかが一気に新作を出したタイミングだったので、自分のなかで再燃したストロークス熱からアナログ・ディレイのエフェクターを使ってみたり」(KENSUKE.A)。
「ただ、そうしたバンドの新譜で盛り上がりつつ、ご意見番の堀江くんから〈お前らはストロークスじゃねえんだよ!〉って突っ込まれたり(笑)。自分も英国で公開された自伝映画をきっかけに4年くらい前からハマってるイアン・デューリーに触発されながら、単なる模倣になってもしょうがないし、4人ならではのやり取りを楽しみましたね」(カジ)。
そのセッションから導き出されたのは、スウィンギンなブリティッシュ・ビートやパブ・ロックの身を切るようにシャープなブルース感、ロックンロール・リヴァイヴァルのモダン・プリミティヴなセンスを昇華したスリリングなロックンロール。タイトなサウンドと共にボブ・ディランを彷彿とさせる攻撃的なリリックを投げ付ける“Manufactured Monkey Dance / マニファクチャードモンキーダンス”や、カジとWATARU.Sの共作による詞がロンドンの街をカラフルに塗り上げる“Have a Cappa Tea / カパティ”、堀江作の白熱するインスト“S.J.D.B. / アーサー・ブラウンに捧ぐ”など、一瞬一瞬、感覚を研ぎ澄ませた4人の姿が浮かび上がる全8曲を収録している。
「今回、エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズも使っているコンボ・オルガンを弾いているんだけど、出音の個性が強いそのオルガンとWATARUの声の相性がバッチリだった。その意味で今回のアレンジは声に呼ばれた楽器に負うところが大きかったし、なにより重要だったのは思考や理屈抜きに出会ったプレイヤーと音をぶつけ合うこと。今回は初期衝動と熱量が渦巻く、そんなセッションになりましたね」(堀江)。
PROFILE/SISTERJET with DOTS+BORDERS
WATARU.S(ヴォーカル/ギター)とKENSUKE.A(ドラムス)から成るSISTER JET、カジヒデキ(ベース)と堀江博久(キーボード)によるDOTS+BORDERSで構成された4人組。2012年のフル作『YOUNG BLUE』を最後にベーシストが脱退したSISTER JETは、2013年5月に2人体制で『3-1=2 No Limit e.p.』をリリース。一方のDOTS+BORDERSは99年にミニ・アルバム『TOKYO TAPES』を発表しており、カジは自身の作品リリースを精力的に行う一方、堀江はthe HIATUSら多くのアーティストのプロジェクトやプロデュースワークなどでも活動中。本ユニットでは、ファースト・アルバム『「NEW QUAD」2×2=4 / very well L.P.』(felicity)を8月7日にリリースする。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年08月23日 19:50
更新: 2013年08月23日 19:50
ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)
インタヴュー・文/小野田雄