インタビュー

LONG REVIEW――ひめキュンフルーツ缶 “アンダンテ”



〈IDOROLL〉の行方



ひめキュンフルーツ缶



ツアー名にも掲げる〈IDOROLL〉の意味は言わずもがな。もうすぐ結成から丸3年を迎えるひめキュンフルーツ缶が、ここにきて急展開のメジャー・デビューを果たした。メジャー/インディーという価値観も昔のように単純に二元化できるものではなくなっている……とはいえ、ローカルの星が全国区の舞台に挑む姿には、長らく応援してきたファンならずとも心躍るものがあるに違いない。

ただ、これで通算9枚目のシングルであるからして、メジャー・デビューと言っても妙に浮き足立つようなことはない。すでにライヴではお披露目済みのナンバーを中心とする4曲(初回限定盤は3曲)は、これまで通り井上卓也を軸に山下智輝(ALFRED)も作詞とアレンジに絡んで、彼女たちのカラーを鮮明に磨き上げることに専念されている。ライヴでオープニングを飾ることの多い表題曲“アンダンテ”は、まさにこのタイミングに相応しい景気づけのようなロック・チューンだ(レディース風の装束で気合いを見せるMVも良い!)。

音楽用語のアンダンテといえば〈歩くような速さで〉を意味する速度記号だが、遠慮なく響くギターを中心にした演奏も、情熱的なフックに流れ込んでいくドスの効いたメロディーラインも、もちろん早歩きどころではない。荒い息を吐くような駆け足はカップリングでも同様だ。明るいコード感からギアチェンジする展開がエモい“メイプルーフ”もいいし、キャッチーな青春モードの“果てしなき旅”のシンガロングを否応なく誘うフィーリングは、ひめキュンの出自そのままに往年の〈青春パンク〉を鮮やかに思い出させてくれたりもしてグッとくる。通常盤にのみ収録の“ネバーエバー”はアンダンティーノぐらいの雰囲気だが、語りかけるような歌唱を支えるサウンドは実に骨太だ。

そうやって逞しい新曲群を聴いたうえで、昨年のアルバム『恋愛ミラクル!!』を聴き返してみると、それが過渡期の記録であって、何かの分岐点であったこともわかる。大きな意味でロック・アレンジを基調とする部分に変化はないものの、個々のパート割りが魅力に繋がってきた“恋の微熱”や、単なる色付けを越えてバンド・サウンドにぶつかった“例えばのモンスター”の存在があってこそ、以降の“キラーチューン”“バズワード”を経た今回のニュー・シングルでは、看板に掲げられたアイドロールという言葉に実像が追いついてきたように思えるのだ。

一方で、先のアルバムを聴いている人ならおわかりのように、彼女たちの楽曲の振り幅の広さはイメージほどロック一辺倒なものではない。そのあたりのバランスがどうなっているのか、早くも9月に届けられるニュー・アルバム『情熱、エモーション。~REAL IDOROLL GIFT~』の仕上がりがいまから楽しみだ。


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掲載: 2013年08月07日 18:01

更新: 2013年08月07日 18:01

文/出嶌孝次